「一回限りの販売」から「長期的なサービス契約」へ
顧客は「消費者」から「利用者」へ
5 サービスとしての製品(顧客は所有せずに、利用に応じて支払う)
「Product as a Service(PaaS)」とも呼ばれ、既に紹介したマッド・ジーンズの例もこれに当たる。
医療機器等のメーカーである「フィリップス (Philips)」のサーキュラーエコノミー事業に、照明器具がある。従来の販売形式からリース式に移行したものだ。ただし、月額制のサブスクリプションモデルではなく、使用した光量に応じて課金される仕組みになっている。
フィリップスの利点としてはまず、長期間の使用に耐える製品設計が可能になったことがある。照明器具をはじめとした従来の電化製品の多くは、技術的には半永久的に使用できる設計が可能でも、売り上げを継続させるために比較的短期間で故障し消費者自身が修理しにくい構造になっていた。こうしたリニアエコノミー型の設計デザインは「計画的陳腐化」とも呼ばれ、サーキュラーエコノミーでは改めるべき対象とされている。
この状況に画期的な形でメスを入れたのが、販売からリースへの移行、いわゆる「PaaS」である。リースモデルの採用により、製品の所有権と廃棄物処理責任はフィリップスが持ち続ける。また、利用者に使用されている間は収益が得られるため、計画的陳腐化を組み込まずともむしろ半永久的に使用できる照明器具の設計に利点を見出すことができる。製品は必ず返却されるので、一台で複数の利用者との取引も可能になる。
なお計画的陳腐化からの脱却は、企業の技術開発の点でも着目されている。技術者にとっては、数年以内に壊れる設計よりも、自身が持ち合わせる知恵と技術力を駆使して、まだ世界中のどの企業も達成していない半永久的に使用可能な設計を頼まれた方が、モチベーションや働きがいの向上に繋がる。欧州企業の間では「サーキュラーエコノミーによって企業内で真のイノヴェーションを活性化できる」とも言われており、社員がやりがいを持って働くことのできる魅力ある企業づくりの観点でも注目されている。
一方で利用者側の利点の一つには、初期投資を大幅に削減できることが挙げられる。例えば、空港やオフィスのような大規模施設への照明器具の導入を想像してみてほしい。オランダのスキポール空港は、欧州の三大空港の一つであり世界を代表するハブ空港だ。その一部エリアに試験的に導入されているのが、フィリップスのリース型の照明器具である。
通常、大規模に照明器具を購入するには莫大な初期費用がかかり、修理やメンテナンスの度に空港は費用を負担しなくてはならないが、リースにより初期費用は大幅に抑えられ、メンテナンスもフィリップスに引き受けてもらえる。
また、PaaSの取り組みに広く見られる特徴として、製品に取り付けたセンサーから収集したデータを活用するコンサルティング事業への展開がある。例えば、フランスのタイヤメーカーである「ミシュラン(Michelin)」は走行距離に応じて課金するタイヤのPaaSとして、タイヤに取り付けられたセンサーでデータを集めより燃費効果の良い運転方法を伝える事業を進めている。
このようにPaaSを用いて計画的陳腐化から脱却することは、「Planet(地球環境)」「Profit(経済的利益)」「People(人々の幸福度)」の「3つのP」の追求にも繋がる。
従来、計画的陳腐化を用いて「定期的な買替え需要の喚起」を進めてきた企業の戦略は、「継続的なサービスの利用」へと根本的に変わり、サーキュラーエコノミーの文脈では、「一回限りの販売から長期的なサービス契約へ(From one-time sales to long-term service agreements)」とも言い表されている。これを通して、リニアエコノミーでは製品を購入する「消費者」とされていた使い手は、PaaSモデルによって借り手としての「(サービスの)利用者」へと変化する。
なお、一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパン代表理事の中石和良氏はデータ収集を導入したPaaSモデルについて、「ユーザーのニーズの吸い上げが行われ、新たなビジネスが生まれ、ビジネスそのものが多角的に広がっていく機会を手にすることができる」と述べ(※)、リニアエコノミーでは思いつかないビジネスモデルに行き着くアプローチとして、その重要性を説いている。
※中石和良『サーキュラー・エコノミー 企業がやるべきSDGs実践の書』(ポプラ新書、2020、40頁)
サーキュラーエコノミー型の未来の世界では
リサイクルはもはやエコなアプローチではなくなる可能性も

以上、アクセンチュアの5つの分類に従い、それぞれのビジネスモデルに触れてきた。
留意すべきは、最終的な着地点は廃棄を出さない仕組みづくりであり、既存の多くのビジネスモデルに根本的な変革が求められていることだ。
ちなみに、「アップサイクル」はサーキュラーエコノミーの話題として取りあげられることが多いが、実際は「サーキュラーエコノミー 」の移行段階にある「リサイクルエコノミー」に近い。
マッド・ジーンズやフィリップスのように廃棄を出さないリースの仕組みや設計・デザインが導入されているわけではなく、対処療法的なアプローチと言えよう。そのため、リサイクル/アップサイクルは、ほとんど全ての廃棄物が焼却・埋め立て処分されている現在では評価されているものの、サーキュラーエコノミー型の未来の世界では、さらに上位のアプローチであるリペアやメンテナンス、リユースが当たり前になり、「リサイクルはもはやエコなアプローチではない」と見なされていることも考えられる。
また、あくまでも前述の5分類は2015年時点での分類方法であり、現在ではこれらに当てはまらないビジネスモデルも多く誕生している。
つまり、サーキュラーエコノミーへの移行は、この分類のどれか一つに当てはまれば良いというわけではなく、全ての要素を網羅して廃棄を出さない仕組みを整えていくことが大切である。
もはや無数にあるとも言えるサーキュラーエコノミー型ビジネスモデルの中から、なんでも闇雲に取り組めば良いわけではなく、現状分析と効果予測を行った上で、最も費用対効果の高いアプローチを導き出し、効果的に取り組んでいくことが肝心である。
(第3回へ続く)