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富士山の山開きが始まった。今年2024年は、山梨県側が7月1日、静岡県側が7月10日だ。山梨県側では、1日の登山者の上限を4000人、通行料2000円の支払い、16時〜翌日午前3時までの5合目入口ゲートの閉鎖(山小屋に宿泊予約済みの人は通行可能)といった新たな運用も導入された。2023年夏季の登山者数は約22万人(環境省が8合目付近にカウンターを設置して計測)と、富士山登山が活況する一方で、装備の不足や「弾丸登山」による事故や体調不良が後を絶たない。そうならないよう、今夏、初めて富士山に登る人が気をつけるべき点を、山岳気象の専門会社・ヤマテン代表であり、今年5月にエベレストを登頂するなど経験豊富な猪熊隆之氏に聞いた。(文・構成/ダイヤモンド社 編集委員 長谷川幸光)

夜間に登り始めることのリスク
5合目に到着したらまずは高度に体を慣らす

――初めて富士山に登る人は、日中と夜間、どちらが良いのでしょうか。夜に登り始めて頂上付近で朝のご来光を見たい、という人も多そうです。

 夜間は景色も楽しめませんし、風が強まります。天気が悪くなることも多く、場合によっては雷も発生します。さらに、山頂でご来光を見ようとする人が多く、夜間は渋滞します。自分のペースで歩けないため途中で止まることも多く、体温が奪われていき、低体温症のリスクも日中より高くなります。

 このように、夜間の登山というのはストレスが多いんです。ストレスが多いと高山病などの高度障害になりやすい。初心者にとってはいいことはないので、日中がおすすめです。

 ご来光が目当てであれば、静岡県側は9合目以上でないと見られませんが、山梨県側でしたら7合目以上はどこからでもご来光を見ることができます。ですので、高山病になりづらい、7合目や、8合目の下のほうの、山梨県側の山小屋で1泊し、次の日の早朝、山小屋付近でご来光を見てから出発するという方法もあります。皆、起きるのが早いので、ご来光よりもだいぶ前に起きてしまうこともあると思いますが、あまり早くからは出発しないほうが混雑も避けられて良いでしょう。

――山小屋で寝るのが苦手な人は、日帰りでの登山も可能なのでしょうか。

猪熊氏猪熊隆之(いのくま・たかゆき)
山岳気象予報士。1970年生まれ。全国330の山の天気予報を運営する国内唯一の山岳気象専門会社、(株)ヤマテン代表取締役。中央大学山岳部前監督、国立登山研修所専門調査委員および講師。2019年以降は、エベレスト(8,848m)、マナスル(8,163m)、チンボラッソ、コトパクシ(エクアドル)、マッターホルン、キリマンジャロなど、予報依頼の多い山に登頂し、山岳気象の理解を深める。日本テレビ系「世界の果てまでイッテQ!」の登山隊や、NHK「グレートサミッツ」「地球トラベラー」、東宝「春を背負って」など国内外の撮影のサポートのほか、山岳交通機関、スキー場、旅行会社、山小屋などに配信。空を見ることの楽しさ、安全登山のための雲の見方などを伝える活動を行っている。『山岳気象予報士で恩返し』(三五館)、『山の観天望気』『山の天気にだまされるな!』(いずれも山と渓谷社)など多数。写真は2024年5月21日、エベレストに登頂した時のもの。

 お鉢巡り(※富士山の山頂で噴火口を見下ろしながら1周すること。1周約3kmあり、通常の徒歩のペースで約90分かかる)しなければ、日帰りも可能です。

 富士山5合目へ向かう富士スバルライン(※有料道路)の早朝のバスに乗って、そこからゆっくり登ったとしても、一般の大人であれば、明るいうちには戻ってこられるでしょう。

 でも、初めて登るかたの「弾丸登山」はおすすめはできません。5合目もしくは(6合目には山小屋がないので)7合目の山小屋で1泊したほうが、高山病対策にもなりますし、時間にも気持ちにも、ゆとりが生まれます。

 日帰りにしても、泊まるにしても、5合目に到着したらまずは時間をたっぷり取ってください。ゆっくりストレッチしたり、食事をしたり、トイレに行ったり、景色を撮影したり。

――5合目に到着したら、さあ行くぞ! とその勢いで登り始めたくなりますが、それはいけないのですね。

 はい(笑)。いきなり登り始めるのはやめたほうがいいです。高度に体を慣らすために、できれば1時間は滞在したほうが良いと思います。私も、友人や初めての人を連れていくときは、5合目でまったりします。

 一番混む時間帯は15時以降なので、午前中というのはそれほど渋滞しないんですね(※2024年より山梨県側は、16時〜翌日午前3時までの5合目入口ゲートの閉鎖)。9時ごろ登り始めると結構すいていたりします。ですので、5合目でゆっくりしてから、9時ごろに登り始める。ゆっくり登って、午後の早い時間帯に7合目か8合目の山小屋に到着し、そこでのんびりしてから宿泊する。そして次の日の明け方に登り始めて、登頂する。土曜日やお盆の時期、連休期間中の夜は山小屋は大変混みますが、平日はそこまでではありません。

――初めて富士山に登ったとき、暑くなって半袖でいたら、次の日、肩や腕全体が水ぶくれになって悲惨でした。

 高い所ほど紫外線が強いので、やけどしてしまいますよね。長袖で、さらに日焼け止めクリームの強いタイプのものとか、リップクリームもあるといいですね。唇も太陽の光にやられてしまうので。唇の紫外線対策というのは、女性のかたは普段から意識されているかもしれませんが、男性の特に若いかたはそこまで考えていないと思います。リップクリームをして、その上から日焼け止めを塗っておくとベターです。

――肌着はどのようなものが良いのでしょうか。