「えたいの知れない不吉な塊」…天才作家・梶井基次郎が残した名作の秘密

正気じゃないけれど……奥深い文豪たちの生き様。42人の文豪が教えてくれる“究極の人間論”。芥川龍之介、夏目漱石、太宰治、川端康成、三島由紀夫、与謝野晶子……誰もが知る文豪だけど、その作品を教科書以外で読んだことがある人は、意外と少ないかもしれない。「あ、夏目漱石ね」なんて、読んだことがあるふりをしながらも、実は読んだことがないし、ざっくりとしたあらすじさえ語れない。そんな人に向けて、文芸評論に人生を捧げてきた「文豪」のスペシャリストが贈る、文学が一気に身近になる書『ビジネスエリートのための 教養としての文豪』（ダイヤモンド社）。【性】【病気】【お金】【酒】【戦争】【死】をテーマに、文豪たちの知られざる“驚きの素顔”がわかる。文豪42人のヘンで、エロくて、ダメだから、奥深い“やたら刺激的な生き様”を一挙公開！

評価されなくても
病床で書き続けた貧乏作家

『檸檬』が認められたのは死の直前だった

梶井が短い生涯で残した作品は、わずか20編ほど。それもほとんどが短編であり、さらには同人誌に発表されたものばかりです。

無名のまま死んでしまったものの、死後に作品の評価が高まり、「屈指の名作」として読み継がれ、ついには教科書に作品が載るほどになったのです。

死後も読み継がれる天才作家

昭和7（1932）年に梶井が亡くなったのち、昭和の後半から現在まで、彼の作品は読み続けられています。

そして、もっとも有名な代表作といえば、なんといっても処女作である短編小説『檸檬』でしょう。

「えたいの知れない不吉な塊」――印象的な書き出し「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧おさえつけていた。焦躁と云おうか、嫌悪と云おうか―」――『檸檬』（『檸檬』新潮文庫に収録）

こうして始まる名作を、みなさんも教科書で読んだことがあるかもしれません。

レモンを洋書店の書棚に置いて立ち去る――名場面

その異常な美しさに魅惑され、買い求めた一顆のレモンを洋書店の書棚に残して立ち去る――

この鮮烈なラストシーンが、多くの読者の記憶に刻まれています。

梶井は生前に名声を得ることはありませんでした。しかし、没後にその新しい作風の鮮烈さとイメージの豊かさが評価され、徐々に人気を集めるようになったのです。

23歳で発表した『檸檬』、当初は無反響

念願の作家デビューを果たした『檸檬』は、大正14（1925）年1月、梶井が23歳のときに同人誌『青空』の創刊号に発表したものです。

しかし、そのときには後世にわたって読み継がれるほどの反響は得られませんでした。

※本稿は、『ビジネスエリートのための 教養としての文豪』（ダイヤモンド社）より一部を抜粋・編集したものです。