Twitterを「X」に名称変更したイーロン・マスク。彼が成功に導いた電機自動車メーカーのテスラは、20年で時価総額世界第9位にまで成長した。しかし、彼は意外にも「自分の会社は失敗するのではないか」と考えていたという。成功の確率をわずか1割だと見積もったにもかかわらず、起業に踏み切った背景には、イーロン・マスク流の「価値ある賭け」への見極め方があった――。
“突拍子もない夢”を追い求めるイーロン・マスク
イーロン・マスクは、宇宙飛行会社を設立すると決意したとき、友人たちから頭がおかしくなったと思われた。
マスクは、自身が手がけた2番目の事業である「ペイパル」の売却によって手に入れたばかりの1億8000万ドルの多くを、後の「スペースX」となる会社に投じようとしていた。
「きっと失敗する。せっかくペイパルを売って稼いだ金が、ごっそり消えてしまうぞ」と周囲は忠告した。
ある友人は、ロケットが爆発する映像をつなぎあわせた動画を編集し、マスクに「頼むからこれを見てくれ。バカな真似はよせ」と伝えた。
ちまたによくある“突拍子もない夢”を追い求めた成功者の物語では、ここで「だが、彼は思いとどまったりはしなかった。心のなかで、自分を疑う人たちが間違っているのを知っているからだ――」という展開になるはずだ。
しかし、マスクの場合はそうはならなかった。友人たちから「きっと失敗する」と言われたときも、こう答えている。
「ああ、僕もそう思う。おそらく失敗するだろうね」
実際、マスクはスペースXの宇宙船が宇宙飛行を成功させる確率を、1割程度と見積もっていた。
2年後、マスクはペイパルを売却して得た残りの資金を、電動自動車の「テスラ」に投じると決めた。マスクはこのときも、成功の確率は1割程度と見積もっていた。
本人が自身のプロジェクトが成功する確率を低く見積もっていることに、周囲は首をかしげた。
2014年にテレビ番組の『60ミニッツ』に出演した際にも、そのロジックを理解しようとするインタビュアーのスコット・ペリーから、次のように尋ねられている。
ペリー「成功しないと見込んでいたのに、なぜ挑戦したんです?」
マスク「挑戦するだけの価値があるのなら、やってみるべきだと判断したからですよ」
マスクの成功に対する期待値の低さは、周りを困惑させた。
なぜなら、人は「誰かが何かに挑むのは、成功する可能性が高いから」と考えるからだ。
しかし、マスクのような人は、必ずしも「これは成功する」と思っているから行動するのではない。彼らは「賭ける価値がある」という考えによってモチベーションを高めるのだ。