「自分ファースト」な人生を
重要視する若者世代

「友人や周囲の夫婦の話を聞くと、フィンランドは女性のキャリア意識が高く、キャリア優先で生きてきた結果、出産が遅くなってしまう、という背景があるようです。子育てに関して他国より恵まれた環境にあるという意識はあるものの、女性は仕事と育児の両立のタイミングを図らないといけない時が必ずあります。男女平等の社会的制度が制定されても、育児に関して女性にかかる負担は大きく、キャリアを犠牲にしてまで子どもを産みたいか?と、立ち止まってしまうのではないでしょうか」

 子育て支援が充実していると同時に、女性の社会進出も盛んな北欧諸国。2024年のジェンダーギャップ指数は2位と上位に位置し(日本は118位)、男女の不平等が少ないとされるフィンランドにおいても、女性がキャリアと育児の狭間で悩んでいるのは日本とあまり変わらないようだ。また女性のキャリア進出だけではなく、経済・雇用環境の悪化が背景にあることも考えられる。

「リーマン・ショック以降、フィンランドの失業率は高止まりしており、実質賃金も横ばい状態。日本と同様に国全体を包む経済停滞のムードが、出産に歯止めをかける一つの要因かもしれません」

 そうした事態を憂慮してか、最近は若いカップルの結婚、出産を促進するための政策に力を入れているという。

「フィンランドでは、お金のない若者のために住居購入の助成金制度があります。出産や子育てに関する助成金も手厚く、出産時に『育児パッケージ』というベビー服や布団などをたくさんもらえる制度もあります。まだ若くて経済的に安定していなくても、家が持てて、子育てにも助成金が出るというのは魅力的な政策です。また妊娠出産に関する女性への負担を軽くするため、親が2人いる場合は勤務日を均等に分けられる、という制度も。北欧では育児の責任を父親、母親とで平等に分かち合うことが重要だと考えているからです」

 物価上昇、経済不安なども影響し、日本では恋愛や結婚そのものに消極的な若者が増えているが、フィンランドの若者も恋愛や結婚にネガティブな感情を持っているのだろうか。

「北欧の若者が恋愛や結婚に消極的だとは思えませんが、やはり将来の家族像を描くよりもキャリアや自分らしい生活、夢の実現というところに重きを置く傾向は、若い世代に広がっているように感じます。子どもを産んで育てるということは、大きな責任が伴います。まずは自己実現をして、子どもを産めるギリギリの年齢まで『自分ファースト』の人生を生き、そこでやっと結婚や出産を……と考える若者が多い印象です。この『自分ファースト』とは、わがままに振る舞うことではなく、『まず自分を大切にして、やりたいことをやりきる姿勢』を指します。日本の方々はここが極端に出来ないので、むしろ見習ってほしい位ではありますが、ただあまりにも完璧に目指し過ぎてしまうと、出産も先送りすることになってしまうのかもしれません」

「世界一幸福な国」とも言われるフィンランド。若者世代に「やりたいことをやりきる」人生が重要視されていることが、急速な少子化にもつながっているのかもしれない。自分らしい多様な生き方ができるようになった現代で、あえて子育てを選択する必要があるのか、と躊躇してしまうのは日本も海外も一緒のようだ。