ドルと債券市場がトランプ氏に発する不吉なメッセージPhoto:Tomohiro Ohsumi/gettyimages

 ドナルド・トランプ米大統領がここ数週間で激化させた貿易戦争に伴う株価暴落は十分に不安をかき立てるものだった。同時に進行したドル安と米国債利回りの上昇(価格は低下)はまさに不吉な兆候だった。トランプ氏が少なくとも一時的に方針を転換し、9日に一部の関税発動を先送りしたのはその兆候があまりに不吉だったためかもしれない。

 投資家は今回のように不安が高まると、通常は安全を求める。そして、ドルと米国債ほど安全なものはない。

 だがリセッション(景気後退)への懸念が強まっているにもかかわらず、通常見られるような安全資産への逃避は起きていない。それにはいくつかの理由があり、インフレリスクなど比較的表面的なものもあれば、もっと根本的なものもある。

 ここ数年、米国は経済成長の速度、テクノロジーの進歩、そして安価なエネルギー供給といった点で他のほぼ全ての主要経済国を上回ってきた。世界中の投資家が「米国例外主義」に群がり、米国の資産を買い入れた。

 米国は依然として例外的な存在であるものの、以前よりも予測しにくい国になり、また、攻撃的な姿勢や孤立する傾向が強まっている。外国人投資家にとってそれは、米国の安全性が弱まったことを意味する。

 米株式市場でS&P500種指数は2月19日に過去最高値を付けたが、トランプ氏がカナダ、メキシコ、中国に対する関税や、アルミニウム、鉄鋼、自動車への関税を発動し始めると下落に転じた。トランプ氏が4月2日、大半の国に「相互関税」を課すと発表すると中国は報復措置で応じ、市場では売り圧力が強まった。S&P500種の下落率は9日の午前中までに19%に達した。同日、トランプ氏は中国を除く貿易相手国に対する相互関税を 90日間停止 すると発表。主要16通貨のバスケットに対するドルの価値を示すウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)ドル指数はこの間に4.5%低下した。