貿易戦争、数十年来の速さで世界を席巻米・メキシコ国境に架かる橋「ワールド・トレード・インターナショナル・ブリッジ」 Photo: Christopher Lee for WSJ

 開かれた貿易に対する障壁が、ここ数十年なかった速さで世界を席巻している。こうした保護主義の連鎖は、1930年代に世界中を巻き込み、大恐慌を悪化させた孤立主義的な熱狂を思い起こさせる。

 それはドナルド・トランプ米大統領が新たに発動する広範な関税だけの問題ではない。同氏の関税は欧州や中国、カナダから多数の米国製品を標的にした報復措置を引き起こした。

 トランプ氏が政権に返り咲く前から、多くの国が貿易障壁を引き上げていた。大抵は中国を標的としており、電気自動車(EV)や鉄鋼などの外国製品が流入し、自国産業を圧迫するのに対抗するためだった。

 このような取り組みは目下、各地に広まっている。米国が関税の壁を高めることで、世界中に押し寄せるだろう新たな製品の波に身構えているのだ。欧州連合(EU)は今月、トランプ氏の25%の鉄鋼・アルミニウム関税発動によって米国から振り向けられる輸入品の増加に備え、域内の鉄鋼・アルミメーカーの保護措置を強化する方針を打ち出した。

 経済学者や歴史家によると、最近の一連の動きは、米国で1930年に施行された「スムート・ホーリー関税法」以来の大規模かつ広範な保護主義的活動の急速な高まりに世界が向かっている可能性を示唆する。世界中の国々が同法をきっかけに関税の壁に隠れて閉じこもるようになり、それが第2次世界大戦後まで続いた。

 ただ、経済学者らは1930年代の大恐慌やその当時の世界貿易崩壊を再現する状況に世界が向かっているとは見ていない。世界的な関税率の平均は1930年代~40年代と比べ、依然としてはるかに低い。

 とはいえ関税やその他の貿易障壁が高まるにつれ、長く続くダメージが経済にも外交にも及びかねないと彼らは警告する。それに伴うリスクには、景気減速やインフレ高進、世界的な協力欠如により長年の同盟関係がさらに分断される可能性などがある。