
>>「西口一希氏に聞く、マーケティングの『いま』と『これから』(上)」から読む。
企業のマーケティング領域では、膨大な数の方法論が唱えられ、初心者マーケターを中心に、マーケティングの基本手法を学びづらい状況があると言われる。また、世の中のデジタル化が進む中で、以前と比べてマーケティングの概念も大きく変わってきた。企業のプロダクトやサービスの価値を最大化するマーケティングとは、どんなものなのか。講演や著書を通じて、マーケティングの在り方をビジネスパーソンに向けてわかりやすく解説している西口一希氏に、新時代のマーケティングの基礎となる考え方を聞いた。第2回は、勝つためのマーケティング手法について、具体的に考える。(聞き手/ダイヤモンド・ライフ編集部 小尾拓也、撮影/平野晋子)
昭和時代のテレビが爆売れしたワケ
成功に必要な「便益」と「独自性」とは
――マーケティングの成功に必要な要素として、「プロダクトアイデア」と「コミュニケーションアイデア」を挙げています。前者は商品やサービスそのものを生み出す手段、後者は商品やサービスを対象顧客に認知してもらうための手段ということですが、より重視すべきはプロダクトアイデアであり、そこでは「便益」(お金を払う理由)と「独自性」(他を選ばない理由)が重要になると言います。その理由を教えてください。
この2つには、プロダクトアイデアが主でコミュニケーションアイデアが従という、明確な主従があります。プロダクトアイデアがやや弱くても、消費者にとって「便益」があれば、コミュニケーションアイデアで補強して、売り上げ向上やブランド育成が可能です。しかし、商品やサービスそのものに便益がなければ、コミュニケーションアイデアだけで中長期的な売り上げを実現することはできないからです(次ページの図参照)。
では、「便益」とは何か。自分にとっていいことがあれば顧客がそれを欲しくなること、言い換えればメリットです。一つのプロダクトやサービスにおける「便益」は、これまでマイナスだった要素をニュートラルにできるか、これまでもプラスだった要素をさらにプラスにできるか、といった視点で考えられます。自分が、それを選ぶべき理由です。
たとえば昭和時代のテレビは、「情報を得たい」「エンタメを楽しみたい」という人々の旺盛なニーズによって売れに売れました。人口が増え、新たなニーズが生まれ続ける中で、競争の少ない製品を作れば、間違いなく売れます。テレビは当時の人々に大きな「便益」を提供していたのです。