
企業のマーケティング領域では、膨大な数の方法論が唱えられ、初心者マーケターを中心に、マーケティングの基本手法を学びづらい状況があると言われる。また、世の中のデジタル化が進む中で、以前と比べてマーケティングの概念も大きく変わってきた。企業のプロダクトやサービスの価値を最大化するマーケティングとは、どんなものなのか。講演や著書を通じて、マーケティングの在り方をビジネスパーソンに向けてわかりやすく解説している西口一希氏に、新時代のマーケティングの基礎となる考え方を聞いた。第1回は、AIの台頭による環境変化の中でマーケターに求められる視座について考える。(聞き手/ダイヤモンド・ライフ編集部 小尾拓也、撮影/平野晋子)
マーケターが心得るべき
「二極化する世界」の現実
――マーケターの仕事は従来とかなり変わってきていると言われます。西口さんは著書や講演で、マーケティングを取り巻く環境を「旧リアルワールド」と「新リアルワールド」に区別して説明しています。これはどういう概念でしょうか。
インターネットの登場とデジタル技術の発達により、今や人間が活動している物理的な世界(旧リアルワールド)よりも、デジタルでつながっている世界(新リアルワールド)のほうが大きくなりつつあります(図参照)。
旧リアルワールド(物理的世界)は、情報源がマスメディア中心で、スマホはあくまで必要なときの連絡手段と捉える中高年世代の世界観。新リアルワールドは、起きている時間は常にスマホに触れ、友達と喋りながら動画を観ているような若者たちの世界観を指します。両者は物理的に同じ空間に住んでいながら、見えているものが全く異なり、分断されている状態です。
AIの登場でシンギュラリティ(人工知能が人間の知能を超える転換点の到来)が起き、将来的に旧リアルワールドは新リアルワールド(ゼロフリクションワールド)に取り込まれていく見通しですが、現在はその過渡期にあり、両方の世界が互いに見えないまま共存する世界(パラレルワールド)に我々は住んでいると言えます。
これからは、そうした世界観でビジネスやマーケティングを考えないといけない。マーケターに求められる価値観は、世界で発生している色々なニーズを、旧リアルワールドと新リアルワールドの二面で捉えるということです。
私は2019年に著書で初めてこの概念を説きました。当時、シンギュラリティが2045年に起きると言われていましたが、足もとではそれがかなり早まって2027年になると見られています。