ベストセラー『「悩まない人」の考え方』著者の木下勝寿氏が「マーカー引きまくり! 絶対読むべき一冊」と絶賛する本がある。『スタートアップ芸人 ―― お笑い芸人からニートになった僕が「仲間力」で年商146億円の会社をつくった話』だ。本連載では、起業家たちがこの本から何を学び、どんな行動に落とし込んでいるのかを探る。今回話を聞いたのは、スポーツテック企業「株式会社Focus」の代表取締役・宮口翔氏。宮口氏が特に注目したのは、“CRO(最高リレーションシップ責任者)”というユニークな役職と「関係づくり」を起点にした、攻めのスタンスだった。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

「CRO=営業できる役員」の採用が成長のカギ
――『スタートアップ芸人』を読んで、どんな部分に一番刺激を受けましたか?
宮口翔(以下、宮口):やっぱりCRO(最高リレーションシップ責任者)の話ですね。
そんなポジションがあること自体、驚きでした。
印象に残っているのが、世界的超一流企業に“結婚式の挨拶専用役員”がいるというエピソード。
つまり、組織として「人間関係づくり」にどれだけ本気で向き合っているかという話なんですよね。そういう役割が制度としてちゃんと存在していることに、圧倒されました。
――Focusでは、そのような外交的な役割を担う方はいますか?
宮口:今は自分がすべて担当しています。
ただ、それって正直、あまり効率が良くないんですよ。
たとえば、会食の場などで話が盛り上がった勢いで「じゃあ、やりましょう」と意思決定を求められるケースがよくあります。
でも本当は、一度持ち帰ってちゃんと整理して判断したほうが良いことも多い。
その点で、CROのように“関係構築に専念する人”がいる体制はすごく理にかなっていると感じました。
――組織として、信頼関係を築く役割を明確にする重要性を感じられたと。
宮口:そうですね。というのも、うちのようなスタートアップでは、信頼関係そのものがビジネスの種になる場面が多いんです。
特に営業では、「いかに信頼を先に築けるか」が結果に直結する。
だから、僕自身も“営業活動”というより、“関係構築の延長としての営業”を意識しています。
逆営業は、会食で仕掛ける
――営業活動も“関係構築の延長”という意識でされているんですね。
宮口:はい。特に意識しているのは、「営業されたら、こちらも営業する」というスタンスです。
たとえば、SNSでDMをいただいたときも、ただ話を聞いて終わりにするのではなく、「こちらからも提案できることはないか」と考えるようにしています。
言ってみれば、“逆営業”ですね。
――“逆営業”ですか?
宮口:ええ。たとえば、X(旧Twitter)で他社の経営者からDMが来ることがあるんです。
そういうときに、「御社のWebサイト、少し動画を差し込むだけで反応が良くなると思いますよ」といった提案をこちらから返す。
相手も決裁者なので、話がとてもスムーズに進むことが多いんですよ。
――なるほど。ただ、いきなり提案すると警戒されることもあるのでは?
宮口:だからこそ、会食につなげます。
「ごはんでも行きましょう」とまずお誘いして、当日は雑談中心。でもその場の温度感を見ながら、終盤に「実は…」と切り出すんです。
もしくは、会が終わった後に「10分だけ、ちょっとだけお時間もらえませんか?」と。いきなり押し込まずに、場を整えてから営業する。それがコツです。
――ここまで営業に積極的だと、案件の数も増えていきそうですね。
宮口:そうですね。自分は「なるべく営業を受けるようにする」という考え方なんです。営業を受ければ、商談の場が生まれる。そして、その商談が“提案の場”にもなる。
電話営業ではなかなかアポも取れないけれど、「向こうから来てくれた」なら話が早いじゃないですか。
――“まずは話す場をつくる”という発想、すごく本質的ですね。
宮口:営業のルールに「営業されたら黙って聞くだけ」なんて決まりはないですからね。自分も提案して、対等な関係を築く。そこから信頼も生まれるし、何より売上にも直結するんです。
“関係性を仕組みにする”という視点が
成長を加速させる
――最後に、本書を読まれての感想をお聞かせください。
宮口:営業や関係構築のあり方を、ここまで構造化して示した本には、あまり出会ったことがありませんでした。
「CRO」という存在をはじめ、人とのつながりを“仕組み”としてマネジメントしていく視点は、会社を成長させるうえで極めて重要だと感じました。
自分たちの組織体制や営業戦略を見直すうえでも、大いに参考になる一冊です。
(本稿は『スタートアップ芸人 ―― お笑い芸人からニートになった僕が「仲間力」で年商146億円の会社をつくった話』に関する書き下ろし記事です)