原油高より深刻な円安要因となるか、サービス収支「赤字10兆円」時代到来の現実味Photo:PIXTA

中東情勢の混乱で貿易赤字拡大への懸念が強まっているが、国際収支を見るうえでより構造的な問題として見逃せないのがサービス収支赤字の拡大である。旅行収支黒字がデジタル赤字を相殺する構図は限界に近づき、AI利用料や再保険料の増加が円安圧力の新たな底流となる恐れがある。(みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔)

貿易赤字拡大が懸念される中
見逃せないサービス赤字の拡大

 目下、中東情勢の混乱を受けて貿易収支の悪化が懸念されるところであるが、今のところ潤沢な原油備蓄の放出もあって赤字拡大は現実になっていない。備蓄放出が行われている間は高価な輸入を行う必要がないため、実際に3月や4月の貿易収支は黒字だった。

 恐らくは5月分(統計上は6月発表分)まではこうした状況が続く公算が大きい。しかし、6月分(統計上は7月発表分)以降、原油輸入が数量ベースで正常化されるに伴い、貿易収支の赤字拡大が幅をもって確認される恐れがあるだろう。

 ところで、筆者はかねて、そうした財の貿易収支も重要ながら、サービスの貿易収支にも着目すべきだという立場を強調してきた。昨年から「長期目線に立てばサービス収支赤字10兆円時代は非現実的な想定ではない。サービス収支の議論は現在よりも未来に着目すべきだ」との趣旨で為替見通しに織り込んできた経緯がある。

 国際収支ベースの統計を見ると貿易収支の赤字が10兆円より大きくなったことは2回(2022年と14年)である。貿易収支が過去最大の赤字となった22年でも、サービス収支の赤字は5.6兆円だった(図表1参照)。

 ゆえに、サービス収支の赤字だけで10 兆円を記録するとなれば、円の需給構造という意味では、非常に大きな変化である。基本的に日本のサービス収支の基調は、「増勢が続くデジタル赤字を旅行収支黒字でどれだけ相殺できるか」が争点である。

 事実、サービス収支赤字はほとんど拡大せず、今のところ、横ばいが続いているが、それは全ては旅行収支黒字の拡大でデジタル赤字の増加を相殺できたおかげだ。

 しかし、労働集約的な観光産業(主に宿泊・飲食サービス業など)は労働供給制約に直面する日本経済では拡大余地が限定されている。片や、資本集約的なデジタル産業については昨今のAIブームも加わって、さらなる拡大が予見される。

 結果、デジタル赤字にのまれるように「サービス赤字は拡大する可能性が高い」というのが、かねて筆者の危惧する展開である。

 次ページでは、ヒト関連収支の大宗を占める旅行収支とデジタル関連収支の動向を検証し、サービス収支の行く末を予測する。