中国、「信頼の欠如」に直面Photo:Pool/gettyimages

「中国には信頼と信ぴょう性が欠如している」

 シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(通称シャングリラ会合)で、フィリピンのギルベルト・テオドロ国防相がこう率直に指摘した。これはこの地域の緊張、そして貿易協議が停滞している米中間の緊張の大きな要因だとされることの核心を突いている。

 テオドロ氏が言及したのは、中国との貿易相手国にとって共通する摩擦の原因だ。中国には約束を履行しない実績がある。

 5月にジュネーブで米中が合意した協定書のインクが乾かないうちに、中国は合意の一部として譲歩した重要な点の履行を遅らせ始めた。これはトランプ政権による報復措置につながった。ただし関税以外の形で。

 WSJの取材によると、事態は次のように展開した。ジュネーブでの協議で習近平国家主席の首席貿易交渉官である何立峰副首相は、チップや自動車などの製品に必要なレアアース(希土類)輸出を再び認めるという米国側の要求に同意した。何氏による土壇場の譲歩によって、最終的な合意が成立した。

 しかし中国にとって、輸出規制を解除することは、再び規制を導入しないことを意味しなかった。ジュネーブでの協議後、数日間だけ規制を緩和した後、中国は輸出の承認プロセスを極端に遅らせた。

 事情に詳しい関係者によると、これは中国の優良企業の一つ、華為技術(ファーウェイ)が製造する特定の人工知能(AI)チップの使用に対する米国の警告に、中国が不満を持ったためだ。ファーウェイに関する警告は新しい政策ではないという説明をトランプ政権当局者が何氏のチームに行ったが、説得することはできなかった。その後、トランプ政権はジェットエンジンと一部のチップソフトウエアの中国向け販売を停止した。両大国間の緊張は高まっている。

 米国の言いなりにはならないとする中国の貿易交渉担当者らは、レアアース規制の再導入などの対抗措置を取る権利があると考えている。しかし米国側にすると、約束は約束であり、破られるべきものではなかった。