『BUTTER』の中に出てくるセリフ
「フェミニズムとマーガリンは嫌いなの」
出版業界において役職がある女性がほとんどいないのは柚木さん自身が取材した事実だそうで、確かに女性向け雑誌であっても編集長が男性であることはままある。
本作の刊行が2017年であり、8年たった現在では日本社会の働き方やジェンダーギャップが少し変わってきたところもあるが、なかなか変わらない業界は「政治」と「マスコミ」とも指摘されている。
『BUTTER』では主人公の里佳が、連続殺人の被告人である梶井真奈子(カジマナ)を取材する中で、親友の玲子とともに次第に梶井のコントロール下におかれるような状況になっていくというのが、物語の中盤までである。
3人の女性はそれぞれに過去とそれに付随する葛藤があるが、これは男性優位社会における女性の立ち位置と切っては切れないものである。
カジマナのセリフに「フェミニズムとマーガリンは嫌いなの」というものがある。
彼女は男性を立てたりケアしたりしない女性を嫌悪している。皮肉を好む英国では、このセリフがとてもウケるのだという。
日本ではこれを作家によるウィットと受け取る人は限られていると思われ、そのような意味において、『BUTTER』はイギリスに飛んで初めて読者から理解されたと言えるかもしれない。
柚木さんは作家の山内マリコさんとともに、2022年に映画界の性加害告発をめぐって原作者としてステートメントを発表している。
この二人でフェミニズム雑誌「エトセトラ」(エトセトラブックス)で「We Love 田嶋陽子!」号を責任編集したこともあり、一部ではフェミニスト作家として知られる。
フェミニズムを嫌う女性は東西関係なくいるが、フェミニズムについてフェミニスト(あるいは女性)がメタ視点で皮肉を言って見せても、それを受け取るだけの土壌が日本ではまだ限定的であるかもしれない。
このほか、里佳の交際相手が10代前半のアイドルを推していることや、カジマナと交流のあった男性がアニメ好きであることなど、今や「クールジャパン」といえばアニメとなった今、海外から思い描く「ジャパン」がさりげなく散りばめられているとも言えるかもしれない。
海外でヒットする前の国内でのレビューを見ると、結末に難があるとする評も散見される。この点についても海外での評価は異なるようだ。
筆者は中盤までのめり込むように読んだ一方、結末についてはいまいちピンと来なかったのだが、日本での刊行から時間がたった今、改めて読むと感想は違うかもしれない。もう一度読み直してみようと思う次第である。
参考)柚木麻子に聞いた、日本文学が海外で大ヒットできる筋道(