強く言いすぎると辞めてしまいそうで、なかなか部下に強く言えない。でも上司からはノルマがふってくる。なのに部下は動いてくれない…そんな悩める管理職にお薦めなのが、「読むと人生が変わる」「世界中で爆発的に広がっているストイシズムが身につく」と話題の世界的ベストセラー『THE ALGEBRA OF WEALTH 一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式』(スコット・ギャロウェイ著)だ。今回は、本書を「お金の本と思いきや実はマネジメントの必読書」と評する「絶対達成コンサルタント」の横山信弘氏の特別寄稿第4弾をお届けする。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

26歳エース人材が突如退職した理由。その上司に欠落した、たった2文字の態度とは?Photo: Adobe Stock

若者と上司の致命的な認識ギャップ

「なぜ優秀な若者が突然辞めるんだ……」

人事部長から聞いた退職理由に、ある営業課長は言葉を失った。
26歳のエース候補が退職を決めた理由。それは「上司がまるで挑戦しないから」だという。

そこで今回は、若者と上司の「挑戦」に対する致命的な認識ギャップについて解説する。部下育成に悩むマネジャーは、ぜひ最後まで読んでいただきたい。

学生起業で500万円を資金調達

退職した若者の経歴は、かなり興味深い。学生時代に起業し、500万円の資金調達を実現した経験があった。

「相当な葛藤がありました」

と本人は振り返る。
学生と企業をマッチングする事業モデルを考えつき、一念発起して起業した。
しかし事業は思うようにいかなかった。借金を抱えることもなく清算できたが、本人にとっては悔しい経験として終わった。

ただ、大学を卒業する頃には、それが素晴らしい「挑戦」であったと思えるようになった。理由は明確だ。大きなリスクを取ったからである。

500万円という金額は、学生の彼にとって途方もない額だった。失敗すれば返済に苦しむ可能性もある。それでも「あえてやる」と決断した。

その後、彼は大手メーカーに入社した。目的は明確だった。

「一から営業を学び直したかった」

起業経験はあっても、大企業の営業ノウハウは知らない。謙虚に学ぶ姿勢で入社したのである。

「新規開拓なんて挑戦じゃない」若者の衝撃発言

だが、配属先で待っていたのは、想像とは違う現実だった。

営業部の全員が既存顧客の対応に振り回される日々。新規開拓はほとんど行われていない。外部環境が変化し、お客様のニーズも変化し続けている。そのせいもあって、業績は下降路線をたどっている。若者は上司に提案した。

「このままでは目標達成は難しいです。新規開拓をもっとやりましょう」

すると、上司からは意外な返答があった。

「この業界に長くいると、なかなか挑戦できなくなるんだよ」
「何でもかんでも挑戦すればいいわけじゃない」

この言葉を聞き、若者は愕然とした。

「何を言っているんだ?」

心の中でそう叫んだという。

「そんなもの、挑戦でも、何でもないだろう……」

この若者にとって新規開拓など「挑戦」のうちに入らない。単に慣れていないだけであり、ストレスがかかるから避けているだけではないか、そう受け止めたのである。

「リスクを取る」ことが挑戦の本質である

ここで私なりに「挑戦」の定義を明確にしてみたい。

挑戦とは「リスクを取る」ことだ。複数の選択肢がある中で、あえてリスキーな道を選ぶ。そうすることで、大きなリターンを得られる可能性が高まる。これが挑戦の本質だ。

スコット・ギャロウェイ著のベストセラー『一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式』をぜひ参考にしてほしい。本書に「リスクとリターンの法則」が書かれている。

書籍から引用してみよう。

正常に機能している市場では、投入資本に対するリスクが大きいほど、その見返りとしてアップサイド(利益を得る可能性)も大きくなる。リスクとは、リターンのために支払う対価なのだ。 

リスクはリターンを得るために支払う代償であり、冒険しなければ、何も得られない。だからこの若者は学生時代、起業に”挑戦”した。

たとえばラーメン屋での選択を考えてみよう。

(1)いつも食べる醤油ラーメン(満足度10)
(2)時々食べる味噌ラーメン(満足度8)
(3)一度も食べたことがない塩ラーメン(満足度?)

このケースで考えると、塩ラーメンを選ぶことは小さな挑戦と言える。
なぜなら、塩ラーメンの満足度は5かもしれないからだ。「醤油にすればよかった」と後悔するリスクがある。
一方で、満足度20という大きなリターンを得る可能性もある。これがリスクテイクなのだ。

では、新規開拓はどうだろう?

既存顧客対応を減らさない限り新規開拓ができない。
このような状態ならともかく、この大手メーカーでは、不毛と思われる「報告だけの会議」「営業支援システムへの入力作業」「大量に送られるCCメール」の対応で追われていた。
計算してみると、新人でも月間40時間、営業課長にいたっては80時間も、これらの社内作業に奪われていた。

これらの時間を大幅に減らし、そこで生まれた時間を新規開拓に充てればいいだけだった。
ひとり当たりの総労働時間は変わらない。残業も増えない。だからリスクなどないはずだった。

本当の挑戦を知る若者が感じた失望感

若者が上司に失望した理由がここにある。
学生起業で500万円の資金調達。これはまぎれもない挑戦だった。失敗すれば多額の借金を背負うリスクがあった。

一方で新規開拓は違う。
会社から給料をもらいながら、業務時間内で行う仕事だ。失敗しても給料は減らない。クビになることもない。それなのに上司は「挑戦」と呼ぶ。

「こんなものは挑戦でも何でもない」

上司が言う「長くいると挑戦できなくなる」という言葉が、この若者の心に虚しく響いた。挑戦でもない「ただ慣れていないことすらできなくなる」という上司の下では成長できないと考えたのだ。

まとめ

最後に、難関資格への挑戦について考えてみたい。
当社には、税理士や公認会計士、社会保険労務士などがたくさん在籍している。
普通、税理士や公認会計士に合格するなら、3000時間の勉強が目安といわれている。毎日2~3時間、週末は10時間以上の勉強を3年近く続けなければならない計算だ。

当然、仕事も、家族との時間も、趣味も犠牲にすることになる。それでも合格の保証はない。これは大きなリスクである。しかし、それでも合格を目指して頑張る。これこそが「挑戦」なのだ。

繰り返すが、労働時間を増やさなくてもできる新規開拓とは次元が違う、と言えよう。26歳の若者が会社を去った後、人事部長はこうつぶやいた。

「彼は安定した人生より、波乱の人生を選んだ」

明らかに勘違いである。
慣れないことから逃げ続ける組織である以上、この先の「安定」などない。「波乱」が待っているだけだ。若者は波乱の人生を選びたくないから、この会社を去ったのである。

20年以上、営業のコンサルティングをしてきたが、新規開拓など挑戦とは呼ばない。ただの「仕事」である。この単純な事実を理解できない限り、優秀な若者の流出は止まらないだろう。
リスクとリターンの法則は、営業だけでなく、仕事をしていくうえでの必須知識だ。
ぜひとも今回紹介した『一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式』で体得してほしい。

(本書は『THE ALGEBRA OF WEALTH 一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式』に関する書き下ろし特別投稿です)

【執筆者プロフィール】横山信弘(よこやま・のぶひろ)

企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成する部下の育て方』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。