「どうされましたか?」

 そう声をかけたが、言葉がわからないのか、あいまいに首をかしげ、そのまま手にしていたビニール袋を私の目の前にかざした。

 ビニール袋の口は軽く結ばれていて、なかに黄色がかった液体が入っている。

 彼女はそのビニール袋を私の前に差し出したままだ。受け取れ、ということなのだろう。

 片手で口のところをつかみ、もう一方の手でビニールの底の部分を支えて、受け取った。

 生温かい。

……まさか。

 彼女はなにやら気まずそうな表情をしている。私が受け取ると軽くほほ笑んで、その場を立ち去った。

……いや、そんなことはないよな。

 急に胸がざわざわしてきた。

東京ディズニー清掃スタッフが女性から手渡された「謎の落とし物」→その正体がヤバすぎて震える…笠原一郎『ディズニーキャストざわざわ日記』(三五館シンシャ)

 私はすぐ近くのレストルームに駆け込んだ。ビニール袋の口をほどき、なかの臭いを嗅いでみる。

 鼻をつくアンモニア臭。間違いない、尿だ。

 個室に入り、なかの液体をすべて便器に流す。ビニール袋は畳んでゴミとして処理した。

 それにしても、なぜ彼女はオンステージ上でビニール袋に入った尿を持っていたのか。そして、それをどうして私に渡してきたのか。その理由はわからない。

“大”*じゃなくて“小”*で済んだのが不幸中の幸いだったのか。とんだ“落とし物”の話であった。