「どうされましたか?」
そう声をかけたが、言葉がわからないのか、あいまいに首をかしげ、そのまま手にしていたビニール袋を私の目の前にかざした。
ビニール袋の口は軽く結ばれていて、なかに黄色がかった液体が入っている。
彼女はそのビニール袋を私の前に差し出したままだ。受け取れ、ということなのだろう。
片手で口のところをつかみ、もう一方の手でビニールの底の部分を支えて、受け取った。
生温かい。
……まさか。
彼女はなにやら気まずそうな表情をしている。私が受け取ると軽くほほ笑んで、その場を立ち去った。
……いや、そんなことはないよな。
急に胸がざわざわしてきた。

私はすぐ近くのレストルームに駆け込んだ。ビニール袋の口をほどき、なかの臭いを嗅いでみる。
鼻をつくアンモニア臭。間違いない、尿だ。
個室に入り、なかの液体をすべて便器に流す。ビニール袋は畳んでゴミとして処理した。
それにしても、なぜ彼女はオンステージ上でビニール袋に入った尿を持っていたのか。そして、それをどうして私に渡してきたのか。その理由はわからない。
“大”*じゃなくて“小”*で済んだのが不幸中の幸いだったのか。とんだ“落とし物”の話であった。