なぜセブン銀行は成功し、マックのメニュー表は失敗したのか?鈴木敏文が見抜いた「売れる法則」Photo:PIXTA

「有名だから売れる」は、経営者が陥りやすい危険な錯覚だ。いくら知られた商品でも客の目に入らなくなると売り上げは急落する。セブン-イレブン・ジャパン創業者の鈴木敏文氏は、そのメカニズムを「爆発点」という言葉で表現した。誰もが不安視したセブン銀行は成功した一方、マクドナルドやローソンの戦略はうまくいかなかったのはなぜか。企業の明暗を分けた判断とは。(イトモス研究所所長 小倉健一)

商売とは、沸点ようなものを意図して呼び込む技術

 水は100度で沸騰する。99度の水とぐらぐらと煮立つ水のあいだには、たった1度の温度差しかない。その1度を超えた瞬間、液体は突如として気体へと姿を変え、爆発的に体積が増える。

 セブン-イレブン・ジャパンを創業し、流通の神様と呼ばれた鈴木敏文氏が書籍『売る力 心をつかむ仕事術』(文芸春秋)で述べた「爆発点」とは、この物理現象を人間の心理にそのまま重ねた概念だ。

 鈴木氏はこう書く。

《水温が上昇して百度を超えると沸騰するように、人間社会でもある仕かけや働きかけが一定段階まで積み上がると突然、ブレークする爆発点があります》

 商売とは、水が爆発する沸点ようなものを意図して呼び込む技術にほかならない。ここで重要なのは、99度では何も起きないという冷酷な事実である。80度の水も90度の水も、見た目には穏やかな液体のままだ。努力が積み上がっていても、臨界点を超えるまで成果は表面に現れない。

 多くの経営者がここで判断を誤る。沸騰しないことを「需要がない」と読み違え、火を弱めてしまうのだ。

 鈴木氏は陳列について語っていて、この原理を最も即物的に示している。ヨーカ堂でリンゴを売るときも、長さ1.8メートルのゴンドラ1本(陳列棚)に並べるのと、思いきって2、3本を使うのとでは売れ方が全然違うのだという。

 並べる量が一定を超えると、客の認知が一気に高まり、心理が刺激され、購買意欲が爆発点に達して手が伸びる。問題はその逆だ。鈴木氏はこう続ける。

《広いフェイスをとれば単品で五百枚は軽く売れる魚フライも、人気があるからフェイスが少なくても売れるだろうと思うと百枚も売れなかったりします》(同書)

 この一文には、商売のすべてが詰まっている。500枚売れる商品と100枚しか売れない商品は、別の商品ではない。同じ魚フライだ。違うのは陳列の量、つまり客の目に飛び込む視覚的な露出の総量だけである。

「人気があるのだから目立たなくても売れる」という、いかにも筋の通った理屈こそが、売上を5分の1に削り落としてしまうというわけだ。爆発点に届かない火加減では、水はいつまでも沸かないのだ。