「日銀は景気回復を支援しようとしており、それは機能している。ECBは景気停滞を支援しようとしており、それは機能している」。米経済学者で元イングランド銀行(BOE)金融政策委員だったポーゼン氏はそう述べた。ECBは日銀やFRBに見習い、大胆な金融緩和を行うべき、との批判である。
しかし、5月23日以降の日経平均株価の乱高下に見られるように、中央銀行が資産価格を人為的に押し上げようとする政策には危うさがつきまとう。BOEのフィッシャー金融政策委員は、ポーゼンとは一線を画した思慮深い見方を5月24日に提示した。彼は「米国式」の無制限資産購入策はやりたくないと明言した。「アメリカ人は脱出の仕方が少し難しいことに気がつき始めたように思う」。
確かに、最近のFRBは市場への情報発信で苦労している。5月22日にバーナンキ議長の議会証言とFOMC議事要旨の公表が重なった。FRBが全体として発したメッセージを咀嚼すると、「経済の回復にはまだ確信が持てないので、無制限資産購入策(いわゆるQE3)の縮小はかなり慎重にやります。ただし投資家の皆さん、過剰なリスクテークには気をつけて下さいよ」というものだった。
バーナンキは資産購入額を調整することに「taper」という単語を使わなかった。その言葉だと、一度減額が始まると自動的にゼロまで行くことが暗示されるからだ。FRBは、資産購入の減額を始めても、次の減額は経済の情勢を見極めてから判断するつもりでいる。QE3の縮小に時間をかける姿勢を示すことで、「QE3終了=出口政策の開始」ではないことを伝えたがっている。
QE3終了はアクセルペダルから足を離すことであって、ブレーキ(ゼロ金利解除やFRBの資産縮小)を踏むことではない。しかし市場は「予想外にFRBはタカ派に傾斜している」と慌てた。市場の期待の制御は難しい。バーナンキが今後うまく立ち回ってくれないと、その衝撃は日本で増幅され、長期金利や株価に再び激しいショックが起きる恐れもある。
ところで、先のFOMC議事要旨には、インフレ率は今後数年間、2%を超えないという予測が載っていた。あれだけの緩和策が続けられ、しかもインフレが国民のマインドにビルトインされている米国ですらそうだとすると、日本でインフレ率を2%以上に押し上げることは容易ではないといえる。
(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)