「転職は悪」という風潮に一石を投じ、日本人の働き方を変えた北野唯我氏の著書、『マンガ このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』。マンガ版では「自分にはキャリアの武器が何もない」と思っている主人公の奈美(もうすぐ30歳)が悩みながら、自分のキャリアを見つけ出していく。「やりたいことがなければダメ」「S級人材以外は有利な転職は無理」など転職の常識が次々と覆される。今回は、本書に関連した著者の書き下ろし記事を掲載する。

今いる職場が「成長できる場」か「辞めるべきか」かを見極める方法Photo: Adobe Stock

20代が重視するのはやりがいより人間関係

「やりがいさえあれば多少の残業や上司の叱責くらい乗り越えられる」――本当にそうだろうか?

 入社3年目、月曜の朝が来るたびに胃が痛むのは“やりがい不足”ではなく“心地よさ欠乏症”ではないか?」
 最近のデータはこの仮説を裏付ける。

 dodaが2025年2月に発表した最新版「転職理由ランキング」では、20代の退職理由2位が「人間関係が悪い」、3位が「社内の雰囲気が悪い」だった。Adecco GroupのZ世代調査でも、勤務先選びのトップ5に「仕事のやりがい」は入らず、「福利厚生」と「良好な人間関係」がランクイン(アデコ コーポレートサイト)。

 20代が本当に求めているのは肩書きや年収ではなく、心地よく働ける環境なのだ。

『転職の思考法』の主人公・青野は「やりたいことが分からない」と悩むが、師匠役の黒岩は「まず心地よい場所を選べ」と諭す。

心地よい環境の見極め方

 ここで言う心地よさとは、①価値観が合う文化、②ストレスなく成長できるペース、③尊敬できる上司や仲間

 給与も事業内容も変わり得るが、カルチャーフィットは日々の幸福度を決める「恒常要素」だ。

ステップ① 違和感を言語化する「違和感日記」
 私が薦める第一のステップは、現職でモヤッとした瞬間を1ヵ月メモし分類すること。上司の叱責が辛いのか、長時間会議が苦痛なのか、競争的な文化が合わないのか――違和感のパターンが見えれば、次の会社選びで避ける地雷が明確になる。

ステップ②副業で“試着”する
 次に、副業や週末プロジェクトで他社文化を体験し“試着”する。本書の市場価値公式(技術資産×人的資産×業界の生産性)は副業でも磨け、一石二鳥だ。

ステップ③カルチャーマッチ面接
 最後にカルチャーマッチと自分の違和感ポイントを先回り質問する。外部のクチコミサイトでもダブルチェックする。たとえば、「御社は衝突より対話を重視しますか?」「残業より成果を評価しますか?」という質問もいいだろう。面接官が曖昧なら、その会社はあなたにとって心地よくない可能性が高い。

 リモートワーク時代、環境は「オフィスの椅子」から「Slack・Teamsの空気」へと姿を変えた。チャットが否定語で埋まる組織と「ありがとう」で締める組織では、半年後の燃え尽き度が違う。Googleが8年かけた「プロジェクト・アリストテレス」も、チーム成果の鍵は心理的安全性にあると結論づけた。心地よさが生産性を高めることは科学でも裏打ちされている。

 Gallupのメタ分析によれば、エンゲージメントスコアが高い企業は離職率が低く、利益率は平均で2倍高い。心地よさは甘えではなく、ビジネス合理性すら兼ね備えた指標なのだ。

 転職サイトの口コミ、OB訪問、X(旧Twitter)のスペース――情報収集のタッチポイントは増えたが、最終判断を下すのは“あなたの体感”である。内定後の懇親ランチで「笑顔が多いか」「質問に率直に答えるか」を肌で測ろう。違和感があれば、条件が良くても見送る勇気を持ったほうがいい。

 さて、冒頭の問いに戻ろう。

「月曜の朝の憂うつは、やりがい不足ではなく心地よさ欠乏症では?」

 違和感を言語化し、フィットする文化を「試着」しよう。やりがいは環境に順応すれば後から芽生えるが、心地よさは最初から仕込まなければ手に入らない。20代でその事実に気づけば、30代を迎えたとき後悔は劇的に減るはずだ。

(※この記事は、『マンガ このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』に関連する書き下ろし記事です)