「逃げちゃダメだ」。上司に強く叱責されたとき、就活がうまくいかないとき、人間関係で悩んでいるとき……人生に訪れるさまざまな辛い局面で、きっと多くの人はそう考えるのではないだろうか。
「逃げる」ことは悪でありダメな人間のやることだと思い込み、真面目で一生懸命な人ほど人生から「逃げる」という選択肢を封印してしまっているかもしれない。
そんな「逃げる=悪」という世間の風潮に一石を投じるのが、巷で“三角コーンの人”などと呼ばれるWeb漫画家・やしろあずき氏の著書『人生から「逃げる」コマンドを封印している人へ』だ。
ツイッターフォロワー数は約50万人、月間2000万PVの漫画ブログを運営と、現在ではレジェンド級の記録を叩き出しているやしろ氏だが、好きなことを仕事にしている現在の彼がいるのは、とにかく向いていないこと・苦手なことから「逃げ」続けてきた過去があるからだという。
今回は、「逃げる」コマンドを持たない人が陥りがちな「罠」について、徹底的に語ってもらった。
もしかして、あなたの人生からも「逃げる」コマンド、消えてしまってはいないだろうか? 自身に問いかけながら、読んでみてほしい。(取材・構成/川代紗生、撮影/疋田千里)

「ブラック企業の渡り鳥になる人」が陥るたった2つの共通点

会社は「3年どころか3秒」で辞めたっていい

──「会社が辛くても3年は辞めるな」という言葉、よくありますよね。3年で辞めるなんて根性が足りないんじゃないかとか……。やしろさんはこの本のなかで徹底的に「逃げる」ことを推奨されていますが、この言葉に関してはどう思いますか?

やしろあずき(以下、やしろ) いやー、あんなもんクソ食らえですよ。3年どころか3秒で辞めたっていいと思います。僕なんて、これまでの人生で「不向き」なことからは徹底して逃げ続けてますからね。人間関係が大変で精神的に辛くて会社に行きたくないのなら、行かなくていいんですよ。休んでいいんです。それは風邪と同じなんですから。

 僕、日本の社会はもっと「逃げる」ことにたいして寛容になるべきだと思うんです。「就職したら3年は辞めるな」という言葉に縛られて、ブラック企業から逃れられない人、周りにいませんか? とんでもなく理不尽な要求を押し付けてくるブラック企業をようやく退職したと思ったら、次に転職した会社もまたブラック企業で、さながらブラック企業の渡り鳥みたいになっちゃってる人。

「ブラック企業の渡り鳥になる人」が陥るたった2つの共通点やしろあずき
WEB漫画家 livedoor公式ブロガーとして月間2000万PVの漫画ブログを運営。 母親に「人に迷惑をかけなければ大概のことはOK」と育てられたため、きわめて自由な大人になる。就活に嫌気がさしてきた頃、たまたま応募したゲーム企画コンテストでベストアマ賞を受賞。それによりゲームプランナーとなるが半年で退社。その後、大手ゲーム会社に転職するが自分の意思に関係なく働かねばならない会社員の働き方が劇的に合わず、仕事の傍ら趣味で続けていたインターネットへの漫画投稿の収益が本業の給料を抜いたことで手応えを感じフリーランスになる。2015年Twitterに投稿した「スタバで見た小学生達の話」がこの年最もリツイートされた日本語アカウントランキング第4位にランクイン。一躍有名になる。以降、様々な連載、企業漫画を執筆しつつ2018年、株式会社グランツアセット執行役員就任。2019年漫画事業・工事用品レンタル事業を法人化し、代表取締役となった。著書に『人生から「逃げる」コマンドを封印している人へ』(ダイヤモンド社)がある。
Twitter:@yashi09
ブログ:http://yashiroazuki.blog.jp/

3年も我慢すれば嫌でも順応してしまう

やしろ この「会社が辛くても3年は辞めるな」っていう言葉、危険だなと思っていて。「理不尽なことがあっても、向いている仕事じゃなくても、社会人としてとりあえず3年は続けないと」みたいな。なんだよその美徳。全然美しくねぇよ、と思うんですよね。人生のなかで3年ってめちゃくちゃ長いじゃないですか。その貴重な3年を、自分に合わないな、辛くて辞めたいなと思いながら我慢して続けるって、めちゃくちゃ無駄な話じゃないですか。奴隷じゃないんだから、っていう。

 だいたい、人間って3年も我慢してたら絶対適用しちゃうんですよ。ある種、嫌なことでも慣れちゃうんですよね。責任も重くなってどんどん辞めづらくなってくるし。向いていることであろうとなかろうと、好きなことだろうと嫌いなことだろうと、3年も我慢すれば、良くも悪くも人って慣れちゃうんですよ。

 だからこそ、この言葉に縛られて嫌な環境で我慢し続けている人って、結局思考停止しちゃってるんじゃないかと思うんです。「逃げる」というコマンドが表示されてない「我慢して続けなきゃ」という選択肢しかないから、自分に向いているもの・好きなものを探す気力もなくなっちゃってる、っていう。