
ケリー・メープルさん(23)は赤ちゃんのナオミを「ヌナ」ブランドのチャイルドシートにそっと乗せ、車でショッピングモールに向かう。到着すると、小さなナオミ――ベビー服を着て頭にはリボンを付けている――を高級ベビーカーに乗せる(ベビーカーには携帯用サウンドマシンとぬいぐるみ、おしゃぶりが備え付けられている)。2人はくすくす笑いながら小さな服を見て回る。ほとんどの通行人はよくいる母娘と勘違いするだろう。
だがナオミは本物の赤ちゃんではない。
ナオミは「リボーンドール」と呼ばれる人間の赤ちゃんそっくりの人形だ。1体1万ドル(約148万円)することもある、コレクター向けのこうした赤ちゃん人形は2000年代初頭から存在しているが、ここ数年、世界中で旋風を巻き起こしている。コレクターは親として、高級なベビー用品に大枚をはたき、人間の子どものように人形を溺愛する。ブラジルではここ数カ月でリボーンドールに批判が集まり、公共の場から締め出そうとする法案が提出されている。
米国ではリボーンドールの世界は日常の風景に溶け込んでいる。リボーンドールの生産は家内工業で、アマチュア作家が自宅の地下室で手作業で人形を成形したり塗装したりしている。制作過程は、より人間らしいシリコーン製の人形の場合は特にそうだが、繊細な淡いブルーの静脈を桃色の柔らかな肌の上に描いたり、頭皮や眉にヤギやアルパカの毛を一本一本、手で植え付けたりと手間がかかる。出来上がった人形は不気味なほど人間に似てる。
ニューヨークでリボーンドールを持ち歩いている人を見たことがない。ある人形作家に筆者がそう言うと、作家は分かりますとでも言うようにほほ笑み、「あなたは見たことがありますよ」と言った。