シンガポール国立大学(NUS)リー・クアンユー公共政策大学院の「アジア地政学プログラム」は、日本や東南アジアで活躍するビジネスリーダーや官僚などが多数参加する超人気講座。同講座を主宰する田村耕太郎氏の最新刊、『君はなぜ学ばないのか?』(ダイヤモンド社)は、その人気講座のエッセンスと精神を凝縮した一冊。私たちは今、世界が大きく変わろうとする歴史的な大転換点に直面しています。激変の時代を生き抜くために不可欠な「学び」とは何か? 本連載では、この激変の時代を楽しく幸せにたくましく生き抜くためのマインドセットと、具体的な学びの内容について、同書から抜粋・編集してお届けします。

中東各国は、真摯に脱石油にヘッジをし始めた
シンガポール国立大学(NUS)のキャンパスに行くたびに、世界中の感度の高い人たちが「好奇心」を発動しながら集結している感覚がある。まさに「大学習時代」の到来を実感する。
地理的に近い東南アジア諸国以外で、当校で学ぶエグゼクティブとして目立つのが中国、中東、そして中央アジア各国の出身者たちだ。
中東各国は、真摯に脱石油にヘッジをし始めた。
脱石油後の国造り、資源関連以外でいかに産業を作り出し、雇用を若者に提供して、そこで戦力になる人材を教育するかを探り始めている。かなり必死で、世界中に官僚や政府系企業の幹部を送り出している。
そのために彼らは、世界の高名な教育機関の教育を買いに来ている。そのモデルとして、まったく資源がないのに、アジアで最も豊かになった都市国家シンガポールは最適である。
今あるプログラムを受講するというより、学校と自分たちでプログラムをデザインし、それを買って政府職員を送り込むのだ。
買い値が日本を含むアジア諸国と違って、それこそけた違いだ。
金銭感覚が違うというより、学びの価値に気づいて、それに自分たちがふさわしい値段を払っているのだ。
シンガポール国立大学としても、最近の大盛況は発見であった。我が校のコンテンツは、このような国々でこんな値段で売れるのか、という発見である。
時代の変化にキャッチアップできるか
1965年8月9日にマレーシアから分離・独立以来、何もない中から、世界有数の富裕国建設を実現したシンガポール(※シンガポールの一人当たり名目GDPは約9万2000ドル、日本は約3万2000ドル/編集部注)。
そのシンガポールの公共政策というコンテンツは、世界中で売れる。
しかも、資源がない中で教育と産業政策を徹底し、中華系社会だが、インド系もマレー系もいて、多民族国家として平和で安全を保っているところも、中東や中央アジア各国は学びたいようだ。
シンガポール国立大学には、学校まで作ってくれという要請もあり、カザフスタンにはNUSをモデルにして公共政策大学を作っている。
もちろん、我が日本にはまだまだ魅力があり、わざわざ訪れる人も多い。
日本にも学びのコンテンツとして売り出せるものもあるし、特に日本の社会保障政策は、今後、高齢化を迎える世界中の国で、モデルとしても反面教師としても素晴らしい教材になる。
ただ、国内外で日本人自体が継続的に、もっと学ばないと、自国に世界が欲しがる知見や価値があることに気づけない。
日本人自体がもっと世界に飛び出して、それに気づいて自らを相対化できるように学んでいく必要がある。
ビジネスリーダーも官僚も政治家も、儀式のような無駄な作業はできるだけやめて、もっと時間とエネルギーを捻出して、時代の変化をキャッチアップする学びにそれを投入するべきだ。
そして、この「大学習時代の波」を乗りこなしてほしい。
(本稿は『君はなぜ学ばないのか?』の一部を抜粋・編集したものです)
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院 兼任教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル・リーダーシップ・インスティテュート フェロー、一橋ビジネススクール 客員教授(2022~2026年)。元参議院議員。早稲田大学卒業後、慶應義塾大学大学院(MBA)、デューク大学法律大学院、イェール大学大学院修了。オックスフォード大学AMPおよび東京大学EMP修了。山一證券にてM&A仲介業務に従事。米国留学を経て大阪日日新聞社社長。2002年に初当選し、2010年まで参議院議員。第一次安倍内閣で内閣府大臣政務官(経済・財政、金融、再チャレンジ、地方分権)を務めた。
2010年イェール大学フェロー、2011年ハーバード大学リサーチアソシエイト、世界で最も多くのノーベル賞受賞者(29名)を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で当時唯一の日本人研究員となる。2012年、日本人政治家で初めてハーバードビジネススクールのケース(事例)の主人公となる。ミルケン・インスティテュート 前アジアフェロー。
2014年より、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院兼任教授としてビジネスパーソン向け「アジア地政学プログラム」を運営し、25期にわたり600名を超えるビジネスリーダーたちが修了。2022年よりカリフォルニア大学サンディエゴ校においても「アメリカ地政学プログラム」を主宰。
CNBCコメンテーター、世界最大のインド系インターナショナルスクールGIISのアドバイザリー・ボードメンバー。米国、シンガポール、イスラエル、アフリカのベンチャーキャピタルのリミテッド・パートナーを務める。OpenAI、Scale AI、SpaceX、Neuralink等、70社以上の世界のテクノロジースタートアップに投資する個人投資家でもある。シリーズ累計91万部突破のベストセラー『頭に来てもアホとは戦うな!』など著書多数。