三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第110回は、ビジネスパーソンに必須の「会計」の学び方をレクチャーする。
ビジネスで英語より重要なもの
桂蔭学園女子部メンバーは「婚活」になぞらえて企業研究に勤しむ。リーダーの藤田家の令嬢・美雪は、会社を見るうえで企業財務の視点は不可欠と強調し、営業利益や経常利益、純利益の違いと着眼点を解説する。
会計はビジネスの世界では英語と並ぶ共通言語だ。業種に関わらず、すべてのビジネスパーソンが身に着けた方が良いという意味では、英語より会計の方が重要性は高い。
作中で熱く語られる「企業分析=婚活論」は今のご時世、炎上必至なので敬して遠ざけ、敬遠されがちな会計について私のオススメの入り口を3つご紹介しよう。
ゼロから会計のイロハを学びたいなら日経電子版の「入社1年目で知っておきたかった会計の基礎知識」シリーズを強くすすめたい。
ネックは有料会員登録が必要なことだが、この良質のインフォグラフィックスが最初に公開されたのは2019年。以来、基本形はそのままに更新を続け、毎年春にアクセスが伸びる定番コンテンツになっている。
基礎編は「決算書ってなんだろう」から始まって、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の「財務三表」をコンパクトに解説する。
応用編では減価償却や「のれん」、減損処理といったひっかかりやすいキーワードのほか、ROE、PER、PBRなどの経営・投資の基礎指標までビジュアル主体で理解できる。
丸腰で「戦場」に出るのは危険!
テキストより動画の方が入りやすい方には、この日経電子版のシリーズを元にしたYouTube「NIKKEI マネーのまなび」の動画の方が入りやすいだろう。こちらは無料で見られる。
私が日経在籍時に担当していた「教えて高井さん」シリーズでは決算書の読み方について、4回にわたって取りあげた。
1本目のタイトルは「企業決算 はじめの一歩」。今見返すと自宅のスタジオ(寝室)の照明不足で画面が暗く、手作り感満載だが、手前味噌ながら、内容は保証する。特にM&Aの増加で重要性が増している「のれん」の仕組みと読み時はスッキリした解説になっていると自負している。
上記のコンテンツでざっくりとした理解ができたら、ぜひご一読を勧めたいのが『会計の地図』(ダイヤモンド社)だ。複雑にみえる会計の流れをたった5つの「箱」で図説するすぐれた入門書だ。就活生や新社会人は一度目を通して損はない。
ユニークなのは、あとがきに「この本は、いわゆる『会計の本』ではない」とあること。細かい会計用語やルールではなく、会計という言語の思考法と、それが現実のビジネスや働く人、投資家にとってどんな意味を持つのかに焦点を当てている。ビジネスパーソンなら、今の自分の仕事が会社の決算や財務にどう影響するのか、腹落ちするはずだ。
前回のこのコラムで金融・経済の基礎を知らずに実社会に出るのは仮免許で公道に出るようなものだ、と記した。
会計の基礎知識を欠いた状態でビジネスの世界で生きるのはさらに危なっかしく、丸腰で戦場に出るようなものだと私は思う。腰を据えて勉強すれば3日ほどで基礎は身につくはずだ。英語も重要だが、まずは会計を優先することをお勧めしたい。