過熱する米株市場から老後資金を守るにはPhoto:Bloomberg/gettyimages

 この株式市場は止まらないように見える。

 S&P500種指数は今年に入って11.5%上昇している。過去10年間の年平均リターンは15%で、長期の年率リターン10.3%を大幅に上回っている。

 明らかな懸念は、株価が異常に高くなっていることだ。より微妙な懸念は、活況を呈する株式市場が油断を生んでいることである。

 巨額のリターンは、努力や犠牲なしに誰もが快適な退職生活を送れるように見せてしまう。これは危険な幻想だ。

 株価指数が過去最高を更新している今こそ、退職後に向けた貯蓄は株式市場の仕事ではなく、自分の仕事だと自分に言い聞かせるのに最適な時期だ。

 今後何十年も働くのか、退職が近いか、すでに退職しているかにかかわらず、退職後の生活を維持するには、自分が考えている以上の資金が必要になる可能性が高い。

 歴史が示すように、現在の高い株価が将来のリターンの低下につながる場合、これは特に当てはまる。パフォーマンスが低下したらどうなるか。高いリターンを当然のものと考えて十分な貯蓄をしなかった人は、退職後に深刻な資金不足に直面する可能性がある。

 しかし、リターンはコインの片面にすぎない。もう一方は支出だ。

 退職後の支出は現役時代より少なくなると広く考えられている。退職前の支出の70%から80%だけを賄えばよいというのが、一般的な目安の一つだ(別の目安では、退職前の収入のほぼ同額を補う必要があるという)。

「退職に必要な貯蓄額」という仮題で本を執筆中の研究者、エドワード・マクウォーリー氏とウィリアム・バーンスタイン氏によると、一般的な目安はナンセンスだ。複数の研究によると、退職後の平均支出は現役時代の93~97%程度だという。