巷には、育児に関する本や情報があふれています。その多くが親に今よりもっと多くのことを行なうよう、アドバイスをする傾向が強いです。もう十分に大きな負担を、さらに重くしてしまいます。著者はアメリカで児童精神科の医師として、20年以上多くの子どもや親たちに接してきました。著者は「もっと頑張るのではなく、頑張らないことが答えだ」と伝えています。
「子育てに疲れる」「子どもの将来に不安を感じる」「子どもを愛するよりも完璧な親になることを優先してしまう」「それが間違っているとわかっているのに、他の家族に合わせてしまう」など、子育てに苦悩する親御さんのための子育て法を新刊『ジョンズ・ホプキンス大学児童精神科医が教える 育児の本質』より紹介します。

育児の本質Photo: Adobe Stock

子育てで本当に大切なことは何か

 子どもを育てるのは、どうしてこんなに大変なのでしょうか。最近では、子どもを持たないほうが賢明だと考える人も増えているほどです。

 子どもの誕生はもちろん喜ばしいことですが、一方で、「これで自分の人生は終わった」と思う人がいるのも事実です。そして、実際にとても大変な思いをしながら子育てをします。さまざまな負担が重くのしかかり、子を産み育てる喜びや幸せを感じにくくしています。

 つらいのは親だけではありません。子どもにとっても同じです。毎日決められた時間割に沿って回し車を走らされ、成績順に並べられているうちに、自分というものがなくなっていきます。自分が本当は何を好きで、どう生きたいのか、考える余裕も与えられません。そのため、親が望むようにできないと、価値のない子、愛されない子になりそうで不安になります。その反動が成人したあとに現れ、目標や自分自身を見失う人も少なくありません。人生に虚しさを感じて憂うつになるのです。

 親は親で、苦労をして育ててきたのに、子どもたちはどういうわけかまったく幸せそうではありません。より大きな問題は、それによる負担が再び親に返ってくるケースが増えていることです。多くの若者が親から独立できず、いつまでも自分の人生の主役になれずにいます。そればかりか、「こうなったのは親のせい」だと、親を恨みさえします。

 多くの親が、「愛情」と「自己犠牲」で子どもを育てています。また、自身の教育方針が子どもにとって一番なのだと信じれば、そのとおりに育児に取り組みます。しかし、世の中は急速に変化しています。今の親には想像もつかない新しい世界を子どもたちは生きていきます。それなのに、親は自分が教えられてきた「過去の論理」と「現在の法則」を指針に子どもを育てようとします。これでは、子どもたちを未来に備えさせることなどできません。

 私は児童精神科の医師として、20年以上多くの子どもや親たちに接してきました。その中で残念に思うことがたくさんありました。どの親も我が子をよく育てたいと願っています。そのために自分の人生は二の次、三の次で必死で子育てをしているのに、一方で不安を抱えています。

 このやり方は自分たちには合わないとどこかで思いながらも、「周りがみんなやっているから」という理由でやめられません。

 本当に大切な教育を行なわず、おかしなやり方にしがみついた結果、我が子を自分の望むように育てられなかったとあとになって後悔します。

 そんな子育ての文化を、本気で変えたい。そのためには一人ひとりの親が考えを変え、行動を変える必要があります。そんな思いから、親のみなさんを対象に講演会を始めました。私のおすすめする方法はとてもシンプルです。

「子育てで本当に大切なことは何か」を知ることです。あとは少しくらい力を抜いても、子どもはしっかり育ちます。「本質に忠実であればいい」、その単純な真理を伝えたいのです。

 巷には、育児に関する本や情報があふれています。その多くが親に今よりもっと多くのことを行なうよう、アドバイスをする傾向が強いです。もう十分に大きな負担を、さらに重くしてしまいます。私は「もっと頑張るのではなく、頑張らないことが答えだ」と伝えています。「育児は重荷に思うほど大変なものではなく、もっと楽しいものである。子どもは幸せに育つことができるし、成長して幸せな若者になれる」ということを広く知ってほしいのです。

(本原稿は、『ジョンズ・ホプキンス大学児童精神科医が教える 育児の本質』からの抜粋です)