子どもたちが生きる数十年後は、いったいどんな未来になっているのでしょうか。それを予想するのは難しいですが「劇的な変化が次々と起きる社会」であることは間違いないでしょう。そんな未来を生き抜くには、どんな力が必要なのでしょうか? そこでお薦めなのが、『世界標準の子育て』です。本書は4000人を超えるグローバル人材を輩出してきた船津徹氏が、世界中の子育ての事例や理論をもとに「未来の子育てのスタンダード」を解説しています。本連載では、船津氏のこれまでの著書から抜粋して、これからの時代の子育てに必要な知識をお伝えしていきます。

世界標準の子育てPhoto: Adobe Stock

よい習慣、思考力、アイデンティティを作る教育

「人生は、生まれた環境によって左右される」とよく言われます。

 たとえば、“金持ちの子どもは金持ちになり、貧しい家庭の子どもは大人になっても貧しいまま”などと言われることがありますが、果たして、それは真実なのでしょうか?

 長年教育に携わってきて、様々な子どもたち、そして親たちを見てきました。アジア人や欧米人、また文化や経済的なバックグラウンドはまったく異なる親子たちです。

 天才と呼ばれる子どもと、その親。かつては神童と呼ばれていたものの、人生の中で挫折してしまった子どもと、その親。また、ティーンエイジャーくらいからメキメキと実力をつけて、圧倒的な能力を身につけていった子どもと、その親など。

 様々な人生模様がありますが、何が人生を分けているのでしょうか。

 それは、よい家庭教師をつけることでも、評判のいい学校に入れることでもありません。決定的な差を作っているのは、親のあり方なのだということを私はまずお伝えしたいです。

 たしかに、ビジネスで成功している人の子どもが、親と同じように学業やビジネスで成功していく例は多々見られます。

 経済的に豊かであれば、子どもによりよい教育環境を与えられる……というのは、決して嘘ではないでしょう。

 しかしながら、経済的に豊かな家庭で育った子どもが全員うまくいっているかといえば、当然そんなことはありません。

 むしろ、親からの期待やプレッシャーが強すぎるあまり、「子ども不在」の教育でつぶれてしまう子どもは世界にごまんといるのです。

 また、親からの愛情が実感できず、精神的にもろくなってしまう子どももいます。

 一方で、経済環境がよくない、親はごく一般的な職業、地方在住といった家庭から、とてつもない能力を持った子どもが育つというケースも多々あります。

 日本人で初めて4大大会(USオープン)を制覇した大坂なおみさんを例にとると、彼女の親はテニスの経験がほぼなかったと言います。

 にもかかわらず、父親はコーチとしてプロになるまで指導し、大坂さんの偉業をサポートしてきたのです。

 つまり、「遺伝」や「親の職業」が子どもの人生の決定的な要因になるかと言えば、そうではないと私は考えています。

 教育においては、「お金がないからよい教育ができない」「自分たちには才能がないから子どもも才能がない」「地方在住で教育機会が少ないから不利」というのはバイアス(思い込み)であり、そのようなバイアスは今すぐに捨ててほしいのです。

 親の持つバイアス、保身や理想の押しつけなどが、子どもの真の才能をつぶしてしまっている。私はそう感じてなりません。

 最初から「この程度だ」「普通でいい」「人並みでいい」という前提でスタートしていれば、教育がうまくいくはずなどないのです。

優秀な子が育つ家庭で行われている3つの柱

 では反対に、優秀な子どもが育つ家庭で行われているのは、どんなことなのでしょうか?

 賢い親のもとで育った子には、3つの柱が備わっています。

 その柱とは、「よい習慣」「思考力」「アイデンティティの確立」という3つです。それぞれ簡単に説明しましょう。

 まず「よい習慣」とは、子どもの人間性を作るベースになる行動習慣のことです。

 性格やメンタリティ、やる気なども含めた人間性は、よい習慣によって作られていきます。その習慣を身につけさせるための教育が、各家庭で行われているのです。

 続いて2つ目の「思考力」とは、誘惑の多い世の中で子どもがよりよい道を選んでいくために欠かせない能力です。

 特に、周囲に惑わされず物事の本質を見抜く思考(クリティカルシンキング)と、柔軟な思考を可能にする地頭力が二大要素になります。

 この能力が身につくトレーニングを賢い親たちは行っているのです。

 最後の「アイデンティティの確立」とは、自分はどう生きるかの指針をハッキリと決めていくための力。

 子どもは様々な経験の中で、自分は何者であり、どう生きたいかを明確にしていきます。

 このアイデンティティの確立こそが教育の最終目標であり、親はそのために子育てをしている、と言っても過言ではありません。

 これらは、それぞれまったくバラバラの資質のように見えますが、関係としてはピラミッドのようなものです。

 根底にある「よい習慣」が人間としてのベースを作り、家庭でのトレーニングによって培われた「思考力」が子どもの人生の方向性を決定づけていき、最後に「アイデンティティ(ぶれない自分らしさ)」がてっぺんにできあがる、というイメージをしてもらうとわかりやすいでしょう。

 優秀な子どもには、ほぼ例外なくこの3つの柱が備わっており、驚くことに、どの家庭でもその資質を身につけさせるためのアプローチが共通しているのです。

 教育に関しては様々な研究も進んでいますが、その研究の中でも、賢い親たちがとっている行動の正しさを裏づけています。

 (本原稿はToru Funatsu著『すべての子どもは天才になれる、親(あなた)の行動で。』から一部抜粋・編集したものです)