巷には、育児に関する本や情報があふれています。その多くが親に今よりもっと多くのことを行なうよう、アドバイスをする傾向が強いです。もう十分に大きな負担を、さらに重くしてしまいます。著者はアメリカで児童精神科の医師として、20年以上多くの子どもや親たちに接してきました。著者は「もっと頑張るのではなく、頑張らないことが答えだ」と伝えています。
「子育てに疲れる」「子どもの将来に不安を感じる」「子どもを愛するよりも完璧な親になることを優先してしまう」「それが間違っているとわかっているのに、他の家族に合わせてしまう」など、子育てに苦悩する親御さんのための子育て法を新刊『ジョンズ・ホプキンス大学児童精神科医が教える 育児の本質』より紹介。少子化、受験競争、育児負担の偏りなど、日本の未来をそのまま表している韓国の現況から、私たちがいますべきことの答えがあるのです。

育児の本質Photo: Adobe Stock

子どものためにまず変えるべきは親の考え

 残念ながら、大変な思いをして親が頑張ったとしても、それがいい教育につながるわけではありません。韓国の育児政策研究所が発行した「2019年育児幸福度国際比較研究」によると、韓国の教育の質に関する順位は、欧州各国に比べてワースト圏内に留まっていました。

 さらに、韓国の教育制度に対する親たちの信頼は全般的に高くありませんでした。もっとも大きな不満は、過度に競争的であること、そのせいで私教育費が高くなっていること、そして、子どもの得意とすることや適性を活かしてあげられていないことにありました。研究者たちは韓国の高すぎる大学進学率も見直すべき課題であると指摘しています。韓国の私教育文化は行きすぎた大学進学圧力からくるものだからです。ちなみにスイスの大学進学率は、約29パーセントでした。

 出生率が世界最下位(2022 list by the United Nations Population Fund)という結果も、深刻な育児の負担や過度な入試競争という現実と無関係ではないでしょう。それに、今の社会の育児と教育のあり方は何かが大きく間違っているという点には、多くの人が同意するはずです。「どこかで教育のあり方を変える必要がある」「入試制度から変えなければならない」という声も高まっています。しかし、我が子のためにまず変えるべきは、ほかでもない親自身の考えです。

 私の講演を聞いて、考えを変え、行動を変えた親はたくさんいます。子どもの多様な面をありのままに尊重し、その子自身の才能と長所を引き出して発揮できるようにサポートし始めるのです。

 親が変われば子どもも変わります。まず子どもの表情が明るくなり、ぎくしゃくしていた親子の関係も改善します。幸せそうな子どもの姿に、親たちは「先生に出会えなければどうなっていたことか、考えただけで恐ろしいです」と口をそろえます。

 医師や講師としての私のメッセージを受け取り自ら変わっていく親たちを見るのは何よりうれしく、やりがいを感じます。ところが、そんなふうに変わった親たちでさえ不安を訴えます。

「これで勉強が遅れたら、どうしたらいいのか」

 最低でも「この程度はさせるべき」という、絶え間ない周囲からのプレッシャーのためです。このような同調圧力がもたらす不安を、どうしたら解決できるのでしょうか。方法が1つあります。みんなで一緒に変わることです。育児と教育の文化を変える波に、私たち全員が手と手を携えて一緒に乗るのです。

 そのために私は、すべての親が育児の本質のメッセージを聞き、新しい文化の波に賛同できるよう、さまざまな方法でアプローチしています。

(本原稿は、『ジョンズ・ホプキンス大学児童精神科医が教える 育児の本質』からの抜粋です)