累計18万部を超え、法律学習の入門書として絶大な支持を集めるベストセラーシリーズ。その最新刊『元法制局キャリアが教える 行政法を読む技術・学ぶ技術』が発売されます。著者の吉田利宏さんは、衆議院法制局で、15年にわたり法律や修正案の作成に携わった法律のスペシャリスト。試験対策から実務まで、行政法の要点を短時間で学べる1冊です。この連載では、本書から一部を抜粋し、行政法を読み解くポイントをどこよりもわかりやすく解説します。

学問的な行政機関の分類
ここでは、学問的な行政機関の分類を紹介します。

行政庁とは?
まず、行政庁です。
行政機関というのは行政主体(国や地方公共団体など)のために手足となって働く機関のことです。そのなかで行政主体のために意思を決定し、それを外部に表示する機関を行政庁といいます。
組織を代表する存在という意味では、会社における代表取締役のようなものです。
諮問機関、参与機関とは?
行政庁から諮問を受け(意見を求められ)、それに対して答申をする(意見を述べる)機関を諮問機関(しもんきかん)といいます。
諮問機関の意見に行政庁が拘束されることはありません。諮問機関は、行政庁の相談役や知恵袋といったところです。
ところが稀に相談したら最後、その答申に従わなければならないしくみが法でとられている場合があります。この場合の行政機関のことを参与機関(さんよきかん)といいます。行政の意思決定に参与する機関なのでこの名があります。
例はそれほど多くはありませんが、一定の場合において、検察官適格審査会や電波監理審議会などは参与機関となります。
監査機関とは?
監査機関は、行政庁の事務や会計処理が適正かどうかチェック(監査)する機関です。
国での会計検査院や地方公共団体における監査委員がこれに当たります。
補助機関とは?
補助機関は行政庁を補助する機関のことです。
国家公務員って少し不思議です。採用されると、「事務官」を名乗るのですが、出世の階段を登りつめると「事務次官」となることができます。事務官と事務次官では、事務官の方が偉いように思うかもしれませんが、大間違いなのです。事務次官こそ、事務方のトップなのですから。
いずれにせよ、省庁には、事務次官をトップにして、その下にたくさんの職員がいるわけですが、こうした行政庁を助ける(補助する)機関をすべて補助機関と呼びます。
執行機関
最後に紹介するのが執行機関(しっこうきかん)です。
行政法学で分類するところの執行機関とは、行政目的を実現するために実力行使をする機関のことを指します。警察官、消防官(正式には消防法で「消防吏員」といいます)はその代表例です。
気をつけなければならないのは、地方自治法での執行機関という言葉の使い方です。
地方自治法では「行政の責任者」という意味で執行機関という言葉が使われています。地方自治法上は、市町村長、知事、教育委員会、公安委員会、監査委員などが執行機関ということになります。
独任制と合議制の違い
行政庁は多くの場合、1人の人が担当しますが、ときには複数の人で担当します。前者を独任制と、後者を合議制といいます。
行政庁は行政の意思を決定する機関なのです。ですから、その責任所在をハッキリさせるためには独任制がふさわしいはずです。
しかし、行政分野においては、そのことよりも、いろいろな意見を持った人をメンバーとして政治的な中立性を確保したり、専門的な分野の行政をしっかり行うことを重視する場合があります。こうしたときに合議制がとられます。

おさらい:練習問題
次の1~5の行政機関は、学問上、どの種類の行政機関に分類できるでしょうか?
下のA~Fの選択肢からそれぞれ1つ選んでその記号を答えてください。
なお、分類できるものがない場合には×を記してください。
2:警察官 ( )
3:◯◯審議会 ( )
4:会計検査院 ( )
5:国会 ( )
【選択肢】
A 行政庁
B 諮問機関
C 参与機関
D 監査機関
E 補助機関
F 執行機関
解答
1:◯◯市副市長 ( E )
2:警察官 ( F )
3:◯◯審議会 ( B )
4:会計検査院 ( D )
5:国会 ( × )
解説
1:副市長は市のナンバー2ですが、行政庁である市長を補佐する存在(補助機関)に変わりありません。
5:国会は、そもそも行政機関ではありません。
【POINT】
行政機関のうち、行政主体のために意思を決定し、それを外部に表示する機関を行政庁といいます。行政庁は普通、ひとりの人がその地位を占めます。これを独任制の機関といいます。

※本稿は、『元法制局キャリアが教える 行政法を読む技術・学ぶ技術』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。