JFEホールディングス傘下の事業会社でありながら、鉄鋼メーカー系の企業らしからぬ独自の路線を歩むJFEエンジニアリング。元は、鉄の製造現場の技術者ながら、「仕事をするとはやり方を変えること」と喝破し、低迷が続いたエンジニアリング事業を軌道に乗せた岸本社長に、経営の要諦を聞いた。

JFEエンジニアリング社長兼CEO 岸本純幸 <br />会社の就業時間が8時間であれば<br />4時間は明日以降のことを考えよ<br />きしもと・すみゆき
1945年、北海道生まれ。70年、北海道大学大学院を修了後、日本鋼管に入社。福山製鉄所(広島県)での勤務が長く、99年常務取 締役福山製鉄所長、2002年代表取締役副社長に就任。03年4月にJFEスチールの代表取締役副社長、05年4月にJFE物流の代表取締役社長、08年 4月にJFEエンジニアリングの代表取締役兼CEO。座右の銘は「風林火山」で、最も好きな「釣り」では福山漁業組合(JFEグループ内の同好会)を立ち上げた。
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――この4月1日より、国内の“重厚長大産業”では初めて「一般職」(高卒・短大卒。転勤なし)と「総合職」(四大卒。転勤あり)という職制上の区分けを全面廃止し、約300人の事務系社員をすべて総合職に一本化しました。

 ずいぶん前から、私は「全員、総合職に切り替えろ」と主張してきたので、ようやく実現したという感じです。「そもそも一般職と総合職は能力が違う」と、最初から区別する必要などない。社内外を問わず、学歴や経験、性別や国籍に関係なく、“やる気のある人”が活躍できる会社に変えていく。

 同じ日から、「派遣社員の正社員化」にも取り組み始めました。自分でも実際に聞いてみたが、社員と机を並べて同じような仕事をしている派遣社員の中には、やる気のある人がたくさんいます。私は、「お試し期間は3ヵ月で十分だ。3ヵ月後に、じっくり話して双方の意思を確認すればよい」と考えていたが、一部の役員から「やっぱり1~2年は見てみないと……」という慎重論が出てきた。また、「そんなことをすると、日本経済団体連合会から呼び出しがかかるかもしれません」とも言われたので、「来ても構わない」と返しました(笑)。

――昨年9月には、横浜本社と鶴見製作所(工場)に近いJR鶴見駅から徒歩1分の場所に「こどもの森」(企業内保育園)を開設しています。一連の施策の背景には、どのような問題意識があったのですか。

 ある時、35~40歳の子どもを持つ女性社員が次々と会社を辞めていくことに気付きました。その理由を聞いてみると、「子どもを夜の6~7時まで預かってくれる施設がない。子どもが1人のうちなら何とかできても、2人になると、保育費の負担額が毎月14万円近くになるので、仕事と子育ての両立ができなくなる」とのことでした。そこで、子育て中の社員も安心して働ける環境を整備することにしたのです。現在、業容を拡張中の弊社としては、「人が足りない」という状態にあります。これまで短時間勤務などの育児支援策を進めてきましたが、やはり経験を積んでスキルを持つ彼女たちに辞められるのは痛い。実際に保育園を運営してみて、いろいろ改良を加えていこうと思っています。