働き方が多様化するなか、「定年=引退」というモデルは過去のものとなりつつある。では、65歳以降、豊かに暮らすにはどうすればいいのか。そして、定年後の仕事にはどんな選択肢があるのか。本記事では『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』の著者・坂本貴志氏にインタビューを実施。仕事の実態を、就業データと当事者の声をもとに紐解いてもらった。(構成・聞き手/ダイヤモンド社書籍編集局、小川晶子)

【定年後の仕事】60代前半に「今の会社で再雇用を選んだ人」と、「会社を辞めた人」満足度が高いのはどっち?Photo: Adobe Stock

60代前半はこれまでの経験を活かして働く

――定年後の人生をどう豊かに過ごすかというのは大きな関心事だと思います。まず、どのような選択肢があるのか教えていただけますか?

坂本貴志氏(以下、坂本):多くの人にとって、長年勤めた会社に残って仕事を続けるか、それとも会社を出て新しい仕事を見つけるかというのが現実的な選択肢だと思います。以前は60歳で定年退職を迎えたら引退し、豊富な年金のもとで悠々自適な生活を送るという典型的なモデルがあったわけですが、時代は変わりました。

シニア世代の就業率はこの10年で大きく上昇しています。総務省の国勢調査によると、2020年時点で65歳男性の就業率は62.9%、70歳男性の就業率は28.7%、75歳男性の就業率は28.7%となっています。

女性の就業率は男性より低いものの、上昇率は男性より大きいです。65歳女性の就業率はここ10年で31.8%から44.9%まで増えました。

――定年後も何かしらの仕事をしている人が多いのですね。

坂本:もちろん経済的余裕があって働く必要がなければ、働かない選択肢もありですよね。ただ現実問題として、年金の給付水準が厳しくなっている一方で物価が上昇しており、多くの人にとって年金だけでは豊かな生活とは言いにくい状況です。いつまで生きるかわからない中で貯金を切り崩していくより、働けるうちは働きたいという方が増えているのです。

――どのような働き方が満足度が高いのでしょうか。

坂本:リクルートワークス研究所の大規模調査で、60代前半・後半の「正社員として働く人」「再雇用されて働く人」「転職した人」で満足度を比べたものがあります。分析の結果、60代前半については同じ会社で働き続けている人の満足度が高いことがわかりました。

定年後は再雇用に伴う報酬水準の引き下げや、ポストオフによる年収ダウンがあって収入水準は下がります。でも、満足度は相対的に高いということは、多少年収や役職が下がったとしても、60代半ば頃までは基本的にはこれまでの仕事の経験を活かして働き続けるという選択肢が満足感につながるということです。

60代後半は「小さな仕事」

――60代後半はどうでしょうか。

坂本:そのまま同じ仕事を続ける方もいらっしゃいますが、「それはキツイ」という方も多いです。それに、60代後半にはそれほど稼ぐ必要もありません。

そこで60代半ば以降におすすめしたいのが「小さな仕事」です。「小さな仕事」とは、報酬はそれほど高くはないけれど、労働時間が短く、仕事の負荷やストレスが少なく、「世の中に必要不可欠で社会に貢献する価値ある仕事」のことです。

『定年後の仕事図鑑』には、高齢期から始めやすい100の仕事を紹介しています。定年後の仕事は必ずしも現役時代の延長線上にはありません。多くの人が、これまでとは違う仕事に就いているんですね。では、どんな仕事、どんな働き方があるのか。ガイドとなるのがこの本なのです。

――こんなにいろいろな仕事があるんだなぁと思いました。実際、65歳以降でも働き口は多いのでしょうか?

坂本:はい。年齢不問やシニア歓迎の求人はとても増えています。人口減少に伴い、多くの企業では人手不足です。今後もシニア歓迎の求人は増えていくでしょう。

満足できる「小さな仕事」を選ぶにあたっては、家計の状況を把握して、月にいくらの収入があれば豊かな暮らしを実現できるのか確認してみてください。

本書では「月に10万円」をひとつの基準としていますが、月に2~3万でじゅうぶんという人もいると思います。どのくらいの時間を費やして、どのくらい稼ぎたいかは人によって違います。『定年後の仕事図鑑』には収入や労働時間などのデータが載っていますから、参考になると思います。

自由に選んで、無理なく働く

坂本:それから、ぜひ「やってみたい仕事」を見つけてほしいですね。現役時代にはできなかったけれど興味のある仕事がきっとあると思うんです。

――そうですね! 現役時代は収入や安定性を大事にした結果、選べなかった仕事というのもあるかもしれません。

坂本:仕事に対する向き合い方は年齢に応じて変わっていきます。現役世代は収入を高めることや高い役職に就くこと、仕事を通じて大きな達成感を覚えること、もしくは高度な職業スキルを身につけることに重点を置くものですが、高齢期の就業者は身近な人の役に立つことや社会への貢献、仕事で新しい体験をすることや、体を動かすことに喜びを感じる人が増えていきます。

仕事の満足度の調査では、若年期から中堅期の就業者よりも、高齢期の就業者のほうが仕事に満足している割合が多いんです。

「この仕事で成果を出さなくてはならない」といったプレッシャーやストレスから解放され、自由に仕事を選んで無理なく働くことができるのが大きいでしょうね。

(※この記事は『定年後の仕事図鑑』を元にした書き下ろしです)

坂本貴志(さかもと・たかし)
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。