働き方が多様化するなか、「定年=引退」というモデルは過去のものとなりつつある。「現役時代のようなフルタイム勤務ではなく、ストレスなく、少ない時間で続けられる仕事があれば……」と考える人も少なくないだろう。では、65歳以降、豊かに暮らすにはどうすればいいのか。そして、定年後の仕事にはどんな選択肢があるのか。本記事では『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』の著者・坂本貴志氏にインタビューを実施。仕事の実態を、就業データと当事者の声をもとに紐解いてもらった。(構成・聞き手/ダイヤモンド社書籍編集局、小川晶子)

【定年後の仕事】65歳以上の調査で「ストレスがかかる仕事」ワースト1の職種とは?Photo: Adobe Stock

65歳以降の人は「ストレスが少ない」

――いまは65歳以上でも仕事をしている方が増えているということですが、現役世代のようにフルタイムでバリバリ働くというより、マイペースに働いている方が多いのですよね。全体的に仕事のストレスは少なめなのでしょうか?

坂本貴志氏(以下、坂本):はい。データを見ると、高齢の就業者ほどストレスが少ないことは明らかです。現役世代の人は、自身の能力に対して仕事の負荷が重すぎると感じる傾向があるのに対し、定年後には仕事における過度な負荷から解放されるんですよね。働く時間も短めで、仕事の難易度や量、責任についてもさほど大きくないので、無理なく働いている方が多いです。

――定年後に仕事の負荷が軽くなることで、もの足りなさや不満を感じる人もいるのでしょうか?

坂本:自分の能力に対して仕事の内容が不足していると感じるシニアの方は、多いわけではありませんが、一定数います。そういう方にとっては、年齢の区別なく働ける環境が大事ですね。実際、現役世代とあまり変わらない働き方をしている方もいらっしゃいます。

ただ、多くの人にとって定年後の仕事は、プレッシャーが少なく、能力とのバランスがとれて仕事への満足感も高くなるんです。

「仕事に満足している人の割合」のデータでは、50歳くらいを境にU字カーブになっていて、65歳以降の方の仕事満足度は高いですし、幸福度についても同様です。

ストレスが多い職種ワースト1位は「事務」

――『定年後の仕事図鑑』には、65歳以降の高齢期から始めやすい仕事19職種100の仕事が紹介されていますが、この中で比較的ストレスが高めの仕事はどれでしょうか。

坂本:本書の中で調査した職種のうちもっともストレスが高かったのが「事務」です。仕事の難しさや人間関係の多さが要素として考えられます(※リクルートワークス研究所調べ)。

労働時間の分布を見ると週に35~42時間働く人が36.1%ともっとも高く、フルタイムよりやや短い時間働く人が多いとみられます。収入水準は高く、平均年収は237.9万円です。年収500万円以上の人も9.9%存在しています。再雇用制度などで事務として長く働ける人事制度が整っており、現役世代と同じ仕事を続けたい人にとってはいいですよね。ぜひ優先的に考えたいところだと思います。

ただ、事務の仕事をするシニアの方は割合として多くありません。最新のデジタルツールを使うなど、高齢になってくるとキャッチアップが難しい面がありますから。また、今後はAIの発達によって需要が減っていくと考えられます。

もう一つ、ストレス高めの職種を挙げるなら「営業」です。成果を出すことが求められる仕事ですから、ストレスやプレッシャーがついてまわります。そのぶん収入は高く、平均年収373.0万円と19職種の中で1位です。

ストレスが少ない職種とは?

――ストレスがとくに少ない職種にはどんなものがありますか?

坂本:「警備員」は一定の体力が必要で労働時間は長めですが、仕事の負荷は少なくストレスが低いです。職種別にタスクを調べたところ、回答者のうち「処理しきれないほど仕事を抱えている」と答えた人はひとりもいませんでした。職場で精神的な不調をきたした人もほかの職種に比べて少なかったです。現場によっては仕事の量、質にかなり差があったり、場所によっては緊張感があったりすると思いますが、全体的にはあまりストレスを感じずに働ける仕事と言えそうです。

また、「調理」は仕事の負荷やストレスが総じて低いです。仕事の自由度が高く、勤務日や勤務時間を選びやすいこと、精神的な疲れの少ない仕事であることが要因でしょう。料理が好きな方にはおすすめしたい仕事ですね。飲食店や宿泊施設で調理、調理補助をする仕事や、給食調理人・調理補助、スーパー・ベーカリーなどの調理スタッフ、皿洗いスタッフ、バーテンダーなどがこれに当たります。

(※この記事は『定年後の仕事図鑑』を元にした書き下ろしです)

坂本貴志(さかもと・たかし)
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。