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東京ディズニーリゾートに57歳で入社し、65歳で退職するまで、私がすごした“夢の国”の「ありのまま」をお伝えしよう。楽しいこと、ハッピーなことばかりの仕事などない。それはほかのすべての仕事と同様、ディズニーキャストだってそうなのである。※本稿は笠原一郎『ディズニーキャストざわざわ日記』(三五館シンシャ、2022年2月1日発行)の一部を抜粋・編集したものです。一部の人物は仮名です。
某月某日 暇そうな人
「バースデーシールください」
「あのぅ、バースデーシール*、もらえますか?」
「カリブの海賊」の前で掃除をしていると、女子高生と思われる2人組が遠慮がちに声をかけてきた。
「誕生日おめでとうございます。お名前はなんですか?」
「江口美保です」
腰にさげたファンバッグに用意してあったバースデーシールに名前を書き込んで渡す。そして、このバースデーシールをつけているゲストを見かけると、キャストは「お誕生日おめでとうございます」とか「ハッピーバースデー!」などと祝福の声がけ*をする。
「ありがとうございます!」
彼女は隣の友人と顔を見合わせ、ことのほか喜んでくれた。私にとっても単なる清掃作業がゲストとの触れ合いに変わる幸せな瞬間である。
東京ディズニーランドでは誕生日を迎えたゲストからリクエストがあれば、バースデーシールをお渡ししている。カストーディアルキャストはオンステージを歩きまわっているので、こうしてゲストからバースデーシールをリクエスト*されることが多い。従って、仕事を始める前には最低10枚程度は携帯するようにしている。
この日はすでに朝から何人もの人にバースデーシールを求められ、さきほど渡したのが用意した最後の一枚だった。オンステージ上で、同僚の石橋さんに、「バースデーシールがもうなくなってしまってね。少し分けてくれませんか」と声をかける。キャスト同士はよくこうして手持ちのバースデーシールを融通しあっている。







