「もうなくなったんですね。笠原さん、大繁盛じゃないっすか」

 気のいい石橋さんは、そう言って笑いながらバースデーシールを分けてくれた。

 ゲストにとってもバースデーシールをもらいやすい人(声をかけやすい人)、もらいにくい人(声をかけづらい人)がいるようで、キャストによってシールの減りが違う。

 ディズニーランドでの楽しみ方をアドバイスするネットサイトではこんなふうにガイドされていた。

「パーク内でキャストさんに声をかける場合は、時間に余裕がありそうなキャストさんを探しましょう。逆に忙しそうなキャストさんは避けるようにしましょう」

 今朝からこんなによく声をかけられるのは、暇っぽく見えているせいだろうか。気を引き締め直す私であった。

今ではバースデーシールに
イラストを添えるサービスはなくなった

 シールが減るといえば、同じカストーディアルキャストの土屋さんである。土屋さんは勤続15年、50代のベテラン準社員、牛丼屋でかけもちのアルバイトをしていた。

 毎朝、カウボーイハットで出勤してくる。もちろんカウボーイハットで出勤したところで、オンステージに出る際にはお揃いのユニフォームに着替えるので、自己満足にしかすぎないわけだが、「これが僕のユニフォームなのです」と主張する、面白いおっちゃんだった。

 彼はバースデーシールにプリンセスの絵を描いてゲストに渡す。彼のイラスト*はひと際上手で、それをもらったゲストは一様に目を輝かせて喜ぶほどだ。土屋さんを知っているゲストはみな彼のイラスト入りのバースデーシールをほしがるので、きっと数十枚は用意していたのではないだろうか。

 聞くところによると、その後、キャストがバースデーシールにイラストを書き添えるのは禁止*になったという。

 禁止の理由のひとつは、キャストの技量の違いでイラストの完成度に差が出るためだ。土屋さんのようにうまい人ばかりではなく、そこそこの人や、下手な人までもがイラストを描いてしまえば、キャラクターのイメージが壊れてしまう恐れがある。

 2つ目の理由は、手の込んだイラストを描くのにはそれなりの時間を要するので、ほかの作業に支障*が出ることであるという。こうして今ではバースデーシールにイラストを添えるサービスはなくなった。