【新連載】<br />急速に進むデジタル化は、あまねくCEOに革新を迫るピーター・ソンダーガード
ガートナー
シニア・
バイス・プレジデント
リサーチ部門最高責任者

 昼時のロンドン。私は今、空港ラウンジで搭乗を待っている。多くの人々と同様に、私も移動中の待ち時間はメールの処理に充てている。こうして普段は搭乗までの時間をつぶしているが、今日は別の目的がある。ブログの初投稿だ。

 ガートナーのリサーチ部門の最高責任者である私は、顧客企業のCEOや幹部らと接する機会が多い。彼らは、テクノロジーがビジネス革新の大きなチャンスになることを理解している。だが自分自身が、テクノロジーを活用した戦略立案、組織改革の推進、方向性の提示にどう関与すべきか分からずに苦心している。

 そこで私は、経営におけるこの抜本的な変化について、読者の皆さんと情報を共有しようと思い立った。テクノロジーが引き起こす変化とはビジネスのデジタル化だ。CEOには、テクノロジー戦略を掲げて革新を起こす責任があるのだ。

 では、実際はどうすればいいのだろうか。空港ラウンジでブログを書きながら、私はこう考えた。「ビジネスリーダーは、“経営ラウンジ”でのんびり時間をつぶしていてはいけない。今すぐ行動を起こすべきだ」と。

 今朝、ウォール・ストリート・ジャーナル紙のロンドン支局の記者と会う機会があった。主な話題は、製品から得られるデータや情報を収益化することで増収を実現させる場合に、テクノロジーがどのような影響力を持つかだった。

 現在、さまざまな産業においてテクノロジーの活用が大きなビジネスチャンスとなっている。にもかかわらず、自ら率先してテクノロジーを活用しているCEOはごく少数だ。米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルト氏は「データの活用によって生み出される収益が、GEの今後の増収の機会となる」と語っている。この発言は、実に的を射ているといえないだろうか。

 前出の記者とは、欧州の他の事例についても話し合った。例えば、スイス連邦鉄道は線路にセンサーを設置するという斬新な手法で、定時運行率を向上させた。シーメンスビルテクノロジーズはデータを活用して、オフィスビルのエネルギー使用量を最適化している。

 にもかかわらず、たいていの企業のCEOはテクノロジー戦略に直接関与していない。今や企業の予算の全てにITが関わっており、デジタル化することでさらなる増収のチャンスが期待できるのに、彼らはそのことを認識していないのだ。最後に記者と私は、「今、社会は明らかにおもしろい大変革の時代に突入している」との見解で合意した。

 ビジネスのデジタル化は、私のブログにふさわしいテーマだと思う。読者の皆さんも遠からずこれに同意してくれるだろう。それでは、次回をお楽しみに。

(翻訳:ダイヤモンド・オンライン IT&ビジネス)
原文:CEOs and the onslaught of Digitalization by Peter Sondergaard

日本の読者向け解題

 昼時の東京郊外。お客様幹部との、基幹システム再構築の進捗会議を終えた。本日の主題は、基幹システム再構築の計画当初に立てたグランドデザインの再立案だ。その中で、一人の幹部から、「今求められるのは、基幹システムだけでなく、企業全体、お客様へのデジタルサービスも含めたデジタル・グランド・デザインが必要だ」という意見が出た。営業本部長、管理本部長、経営企画本部長が参加するその会議で、異議を唱える人は一人も出ず、後押しする意見だけが出た。

 マクロレベルの趨勢を研究し、全体の方向性を示すことに重点を置くガートナーのリサーチ部門に対して、私が属するコンサルティング部門は、個々の企業の皆様の個別の問題の解決に重点を置く。多くのテーマは、上述のお客様のように、全体の趨勢を如何に、個々のお客様に適用していくかである。このコラム展開において、グローバルでのデジタル化の趨勢について、日本企業視点での考察を追記していきたい。

 仕事柄、多くの経営トップと会話を持たせて頂く。断言してもよいが、最近の経営トップは、ITの重要性は理解されている。しかし、経営トップが具体的に何をするかに目を向けると、そこは従来のマネジメント手法から脱しきれていないと言わざるを得ない。予算、人事、組織の枠組みを飛び越えて、自ら率先して動きを加速する人は、ほぼいらっしゃらないように思われる。

 デジタル化への対応には、増収と減収の分水嶺があるとガートナーは考えている。しかし、一方でデジタル化への対応は、個々の企業にとって何が答えか分からない。そういう取組だからこそ、ピーターは、経営トップ自らが、スタッフを整え、率先してアイデアを出し、構想をまとめ、社内外に説明することの重要性を説いている。

 デジタル化によって、まず変わったのは、顧客だろう。次に変わるべきは、経営トップである。

(宮本認・ガートナー ジャパン コンサルティング部門 シニア・マネージング・パートナー)