税務署は定期券まで調べる…知らないと絶対損する「お金の話」
本連載は、相続に関する法律や税金の基本から、相続争いの裁判例、税務調査で見られるポイントを学ぶものです。著者は相続専門税理士の橘慶太氏で、相談実績は5000人超。『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』を出版し、遺言書、相続税・贈与税、不動産、税務調査、各種手続といった観点から相続の現実を伝えています。2024年から贈与税の新ルールが始まるため、その注意点を聞きました。
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税務署は定期券まで調べる…知らないと絶対損する「お金の話」
本日は、相続税を大きく減らすノウハウと注意点をご紹介します。
所得税や法人税といった税金は、基本的に誰が計算しても同じ金額になります。しかし、相続税は違います。遺産の分け方によって無限ともいえる正解があるため、税金面と気持ち面のバランスがとれた最適解を探す必要があるのです。
なぜ遺産の分け方で相続税が何倍も変わってしまうのか。大きな理由が2つあります。「小規模宅地等の特例」と「配偶者の税額軽減」です。本日は前者を説明します。
「小規模宅地等の特例」とは?
小規模宅地等の特例とは、「亡くなった方が自宅として使っていた土地は、配偶者か、亡くなった方と同居していた親族が相続すると8割引きの評価額で相続税を計算してもいいですよ」という制度です。5000万円の土地であれば、たった1000万円で評価できるという、減額の幅が非常に大きな特例です。ちなみにマンションの場合には、マンション全体の土地のうち、所有者の持分に対応する部分が8割引きになるので、戸建てよりは恩恵が少なくなる傾向があります。
この特例は「小規模」という名の通り、使える面積に限度があります。それが330㎡、つまり100坪です。ただ、100坪を少しでも超えると特例が使えなくなるわけではありません。100坪までは8割引きとなり、それを超える部分は通常の評価額で計算します。
地価の高い地域においては、この特例が使えるか使えないかによって、相続税が何百万~何千万円と変わることもあります。また、遺産の合計額が基礎控除を超えていたとしても、この特例を使えば基礎控除以下となり、結果として、相続税が0円になる人もたくさんいます(この場合、相続税の申告は必要です)。
ポイントを徹底解説!
小規模宅地等の特例を使うためのポイントを解説します。この特例は、「自宅を誰が相続するか」で適用の可否が決まります。特例が使える人は2人です。1人目は配偶者。配偶者が自宅を相続した場合は、無条件で8割引きになります。2人目は、亡くなった方と同居していた親族です。
例えば、母が自宅を所有しており、その母と長男が同居していた場合、母から長男に自宅を相続させれば、同居親族として自宅(土地)の評価額は8割引きになります。これがもし、母とは同居していない二男が自宅を相続した場合には、8割引きにはなりません。また、仮に長男と二男それぞれ2分の1ずつ共有で相続した場合には、半分は8割引き、半分はそのままの評価額になります。
ちなみに、特例を使える人が自宅を相続すると、遺産総額そのものが割り引かれて計算されるため、結果として、自宅を相続しない人の相続税も減少することになり、win-winの関係になります。
ただし、自宅に見合うだけの金銭等で調整しないと、二男は納得しないかもしれませんね。この同居親族の取扱いについての質問をいくつかご紹介しましょう。
みんなが疑問に思うこと
まず、「親との同居期間は、どのくらい必要ですか?」という質問です。答えは、ほんの少しの期間でも問題ありません。極端な話、亡くなる一週間前から同居を始めたとしても、この特例を使うことが可能です。ただそう聞くと、「親が亡くなる直前から実家に泊まり込んで、親が亡くなったら元の家に戻る形でも特例が使えるということですか?」と思いますよね。一時的な同居で特例を使おうという作戦です。残念ながら、それは認められません。
同居期間に制約はないものの、相続が発生した後、相続税の申告期限(相続開始後10か月)まで、その自宅に継続して住み続けることが条件となります。そのため、一時的な泊まり込みで、この特例を使うことはできません。
次は「親と住民票だけ一緒であれば、同居していたことになりますか?」という質問です。この答えはNO。住民票だけ一緒でも、同居していた実態がなければ特例は使えません。
税務署が定期券まで調べる理由
裏を返せば、住民票が別でも、同居していた実態があれば、特例は使えます。税金の世界は実態がすべてなのです。
「税務署の人は本当に同居していたかどうかなんて調べられるの?」と思う方も多いでしょう。実は、調べることはできるのです。
もしも、相続税の税務調査に選ばれてしまった場合、同居の実態があったかどうかを徹底的に調べられます。例えば、同居していた人の通勤定期の区間(親と同居していたなら、その最寄り駅と勤め先の区間でないとおかしい)や、水道光熱費の推移(同居を開始した前後の月で使用量の変動がないのはおかしい)、極めつけは近隣住民への聞き込みも行われることがあります。基本的に、プロ中のプロである調査官の目を欺くことはできないと考えてください。
(本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・編集を行ったものです)







