「一発屋」で終わる企業と「何度も花開く」企業の決定的な違い『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第43回では、企業の成長にまつわる、ある経済理論について解説する。

「生きるか死ぬか…それってゾクゾクしますね」

 前話から一気に3年が経過し、主人公・花岡拳は自社名を「株式会社ハナオカ」に変更。Tシャツ専門店の「T-BOX」は、全国32店舗に拡大し、年商45億円という一大企業へと成長していた。米国・ハワイにも出店し、米・中・アジアと、海外進出にも本腰を入れるかというフェーズになった。

「今、思えばここまでウマくいくとは…想像以上の成功だ…」

 会社を大きくし、縫製とプリントを一体化する新工場も設立。ビジネスでは成功を収めるも、花岡は「ただ…これでいいのか…」「どうする…一体どうしたいんだ俺は……」と自問自答の日々を過ごしている。

 会社の今後、そして自身のこれからを模索する花岡に対して、投資家である塚原為ノ介は「株を公開したらどうかね」と、IPO(新規上場)を提案するのだった。

 会社を大きくしたいのであれば、環境を変えてみる。それで新しい未来が開ける。だが同時に、市場経済の激烈な戦いに突入するということを意味する。そんな塚原の話を聞いた花岡は、にんまりと笑い「生きるか死ぬか…それってゾクゾクしますね」と語るのだった。

成功した企業が直面する「S字」の停滞期

漫画マネーの拳 5巻P161『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 年商45億円で店舗も全国展開。さらには海外進出――外から見れば、誰もがうらやむ「成功した起業家」になった花岡。だが本人の胸中は晴れない。「これでいいのか」と自問する姿は、現実の起業家像に近いのではないか。

 経営学者のクレイトン・クリステンセン氏は、企業の成長は「S字カーブ」を描くという理論を説いた。

 技術や事業、組織といったものは、創業時こそ成長が鈍いが、その後急成長のタイミングを迎える。そして、ピークの時期と前後して、再び成長が鈍化する。これを「S」の字に見立てたのだ。次の成長のためには、また新たに「S字カーブ」を描く場所を探さなければならない。

 花岡たちのT-BOXは、まさに最初のSカーブを登り切る直前。商品が売れるかどうかで一喜一憂することもなくなったが、次の飛躍のチャンスを求めている。そこに塚原からのIPOの提案があり、新たな「S字カーブ」の可能性を感じたとも言える。

 ちなみに現実のスタートアップで言うならば、投資家は投資した資金を増やして回収するという「金融業」が基本だ。そのためスタートアップに投資する際はIPOやM&A(企業の買収合併)といったかたちでのイグジット、つまり出口戦略までを起業家と約束するのが基本だ。

 この1、2年でもIPOを取り巻く環境は大きく変化している。折を見て本連載でもその内容に触れていきたい。

 塚原が紹介した証券アドバイザー・牧信一郎と面談する花岡。花岡と対話を重ねた牧は、あらためて花岡に上場を提案するのだった。

漫画マネーの拳 5巻P162、P163『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 5巻P164『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク