こりゃダメだ…「マジで退職5秒前」な人の決定的な特徴【マンガ】『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第34回では意思決定するタイミングの重要性について解説する。

「ウジウジ悩んで、何隻の船を見送ってきたんだ」

 Tシャツ専門店「T-BOX」の事業を手がける主人公・花岡拳。東京・渋谷に出店した1号店に続き、新宿に2号店の出店を計画するも、時期尚早だとして反対した幹部社員の日高功と対立してしまう。

 花岡は、あらためて2号店の出店を決意し、それをアメリカ大陸を目指したコロンブスの船に例えて「新宿出店はする!船の行き先と出航は決まってるんだ」「ただし、この船は乗りたいやつだけ乗せて船出する」と日高に迫るのだった。

 花岡はさらに日高に対して、「船長が気に入らねえ、行き先が不安だ、難破したらどうしよう……」「出港目前にして港の岸壁でウジウジ考え悩んで…いったい何隻の船を見送ってきたんだ」と語り、日高に挑戦する覚悟を問うのだった。

 新宿出店には、それ以外にも課題があった。そもそも出店資金が不足していたのだ。

 花岡は秋田工場を統括する木村ノブオに連絡し、工場を担保にして融資を受けるように指示をする。だが、渋谷店の売り上げがまだ伸びていないことから、望むような金額を借り入れすることに苦戦するのだった。

「ファーストムーバー(先行者)」はリターンも大きい

漫画マネーの拳 4巻P161『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 花岡の言葉は、起業や新規事業の立ち上げなど、ビジネスにおける「挑戦」のタイミングを見極める姿そのものだ。たとえどれほど準備を整えようが、リスクがなくなる瞬間など訪れることはない。むしろ、最初に動いた者だけがつかめる追い風がある。

 一般的にも浸透してきた言葉だが、経営の世界ではこれを「ファーストムーバー・アドバンテージ(先行者利益)」と呼ぶ。

 新市場や新技術の開拓で、最初に動いた企業はブランド認知やネットワーク効果、ノウハウの蓄積などで後発より優位に立てるというわけだ。先行者になれず、いったん市場が形成されると、後から追う企業はコストや差別化で不利になるためだ。

 単体での音楽プレーヤーしか市場になかったタイミングで、音楽配信サービスと組み合わせて展開したAppleのiPodもそうだし、「CtoC形式の宿泊」の認知が限定的な中でスタートしたAirbnbもそう。後発が追随しようにも、エコシステムが確立されてしまえば追いつくことはできなかった。

 一方で、先行者には大きなリスクもある。

 そもそも市場が育たなければ事業は失敗するわけだし、認知獲得や市場開拓のための初期コストは高くなる。とはいえ、完璧な環境を待っていたら、誰も船を出せないわけだ。花岡の語った出航の決断とは、まさにリスクを承知で踏み出すことの比喩なのだ。

 新宿出店を目指し、資金集めに奔走する花岡。次回、あらためて社員全員の前で、出航の意思を問う。

漫画マネーの拳 4巻P162、P163『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 4巻P164『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク