
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第3回は、スタートアップにおける採用の重要性を説く。
ウソをつくようなビジネスは成功しない
元ボクシング世界王者であり、現在は起業し居酒屋経営に苦戦中の主人公・花岡拳。成功者である塚原為ノ介は1億円を出資する条件として、花岡に「赤字経営の続く居酒屋を2カ月で黒字化する」ことを求める。
花岡は黒字化実現の第一歩として、ナアナアな態度で仕事に取り組む料理長と店長に対して「客にウソをつきながら商売をやって」いると述べ、改革を迫る。反対する2人に、花岡がとった手段とは――。
読んでいて衝撃的だったのは、抵抗勢力である料理長と店長との“密談”のシーンだ。2人は飲食業界経験が長く、花岡よりも業界の知見が豊富だ。それをいいことに、花岡の言うところの「客にウソをついた仕事」を続けようとして、こんなことを話しながら酒を酌み交わす。
「どうせ店のことなんか何ひとつわからねえんだから。今までどおり、俺達のやりたいようにやれることには変わりねえよ」
「でも…これから口出ししてくるとウザったくないすか。実際経営状態もあんまり良くないわけですし…」
店が潰れれば自分たちも路頭に迷うというのに、この開き直りようである。起業家・経営者よりも業界経験が豊富なのをこれ幸いと、不誠実な仕事を続けようとする2人には恐怖さえ覚える。
現実にも起こりうる「採用のミスマッチ」

現実の起業の世界でも、同じようなことが起こりうる。
創業からのメンバーが担っていた業務であっても、事業の成長に合わせて「その道のプロ」を採用し、さらなる拡大を目指すべきタイミングはやってくる。
そんなときに採用のミスマッチがあれば、起業家は花岡と同じような課題にぶち当たってしまう。万が一、料理長のような「組織を腐らせる」NG人材を採ってしまったら最悪だ。
そうしたミスマッチを避けるためにも、スタートアップは創業から早い段階で「MVV(Mission、Vision、Value)」と呼ばれる企業理念や行動指針を定めることが重要になる。社内の価値観を醸成し、ときには先輩経営者や投資家たちの力も借りながら、自社の成長に最適な人物を探し出さなければならない。
過去に取材した起業家の中には「自分の仕事は(採用のために)人と会うこと、ものごとを決断すること、それだけ」と言い切る人物もいた。ライトパーソン(最適な人材)の採用はそれほど重要なのだ。
花岡と料理長・店長らのバトルは来週に続く。花岡のとった手段は功を奏すのか? 次回の展開が気になって仕方ない。

