公費は支出せず
私費で「艦内神社」を維持

 その答えは「艦内神社」である。

 艦内神社とは、その名の通り艦内に祀られている神棚を指す。海上交通の安全を祈願する「船霊(ふなだま)」に由来するもので、「公費は支出せず、乗員の私費で賄う」という慣例的な運用のもとで長らく維持されてきた。

 冒頭の海上自衛官は、次のように解説する。

「最近では、2023年3月に就役した多機能護衛艦『くまの』が、艦名に由来する熊野神社から分祠されて艦内神社をつくっています。もちろん、公費は一切支出せず、乗員の私費で賄っています」

「訓練の途中で艦名に由来する港に入り、神社に参拝する。これも船乗りの楽しみの一つです」

 艦内神社については、政教分離の観点から疑問視する声も一部に存在するものの、現時点では廃止に向けた運動や訴訟までは起きていないようだ。

 このように、海上自衛隊には歴史や伝統に基づく不文律が目立つが、それだけではない。陸上自衛隊と同じく、隊員の安全性の観点から、合理的な理由で設けられたルールもある。

 その代表例が、ポケットに手を入れる「ポケットハンド」の禁止。甲板上の手すり「サイドレール」にもたれかかるのも厳禁だ。船を係留するために使用する「舫(もやい)」などのロープ類をまたぐことも禁止されている。

 海上自衛隊が使用するロープの中には、人の腕ほどの太さに達するものもある。隊員がロープをまたごうとした際、巻き取りなどで運悪く動き出すと、足を取られて負傷する危険性がある。また、ピンと張った「舫」が切れて人に当たると、良くて骨折、最悪の場合は命を落とす。

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 このほか、海上自衛隊の実務では「地上ではメートル法を使うが、海上ではマイル法を使う」「船の速さはノットで計算する」といった慣行もある。冒頭の海上自衛官は「陸と海で使う単位が異なりますが、自然と使い分けています」と話す。

 かくいう筆者も現職の時、ロシア海空軍の主要基地の緯度経度を覚えていて、だいたいの距離と航空機・艦艇での到達時間を暗算できるようになっていた。