「なぜ自衛隊に音楽隊が必要?」「音楽隊も戦闘訓練するの?」→防衛省OBの答えが的確すぎた!陸上自衛隊音楽隊の隊員たち Photo:Bloomberg/gettyimages

テレビで国賓の歓迎式典を見たことがあるだろうか。陸上自衛隊の儀仗隊による栄誉礼にあわせて、凛とした演奏を披露する楽隊の姿。あるいは、地域のイベントで迫力ある行進曲を奏でる自衛隊員たち。彼らこそが自衛隊の「音楽隊」だ。華やかなステージの裏側には、どんな世界が広がっているのか。その実力は世界でどう評価されているのか。そして、なぜ自衛隊に音楽隊が必要なのか。意外と知られていない自衛隊音楽隊の正体と実力に迫る。(安全保障ジャーナリスト、セキュリティーコンサルタント 吉永ケンジ)

防衛大学校ではなく
音大出身者が多数派!

 ある現役の音楽隊員は、「音楽隊は高学歴のエリート集団」と語る。音楽隊員の出身校は東京音楽大学や京都市立芸術大学など、日本を代表する音楽大学や大学院の卒業者が大半を占めている。

 自衛隊全体で大卒者の割合は幹部自衛官で5割弱、非任期制自衛官で2割ほどである。その中で、国内最高峰の大学を出たメンバーが集っている部隊は極めて珍しく、高学歴のエリート集団という表現に嘘はない。

 自衛隊の募集難が「平時の有事」と叫ばれる中で、なぜ音楽隊に人が集まるのだろうか。上述の音楽隊員は「音楽で食べられるから」と指摘する。

「日本には数多のオーケストラが存在しますが、副業せずに食べていけるのはNHK交響楽団と読売日本交響楽団、東京都交響楽団の『御三家』だけ。東京に所在する主要オーケストラであっても、多くの団員は個人レッスンなどの副業をしなければ生活が苦しい。

 そのような事情なので、自衛隊や警察、消防の音楽隊は音楽で食べていけるほか、経済的に安定していると人気です。中でも自衛隊の音楽隊は演奏レベルが高く、さまざまな舞台で演奏できるため良い人材が集まります」(冒頭の音楽隊員、以下同)

「なぜ自衛隊に音楽隊が必要?」「音楽隊も戦闘訓練するの?」→防衛省OBの答えが的確すぎた!Photo:Tomohiro Ohsumi/gettyimages

 このような音楽隊は、陸上自衛隊に21個、海上自衛隊に6個、航空自衛隊に5個存在し、隊員は約1500名に及ぶ。全員が「音楽科」という専門職として管理されており、本業が別にある警察や消防の音楽隊とは異なる。ただし、音楽隊員になるには自衛官採用試験に合格した上で“職種説明会”と呼ばれる音楽適性テストを突破しなければならない。

 次ページ以降では、エリート集団である自衛隊音楽隊の、練習や演奏会に追われるハードな日常に迫る。さらに、巷でよく耳にする「音楽隊も戦闘訓練をやっているのか?」「なぜ自衛隊に音楽隊が必要なのか?式典には外部のオーケストラを呼べばいいのでは?」といった疑問にもお答えしていく。