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自衛隊がゴジラならぬ、クマへの対処で出動するという前代未聞の事態となった。しかし、陸上自衛隊が「クマ退治」で出動したと勘違いされるとともに、盾に木銃という前時代的な姿に失笑の声も聞こえた。今回の出動は11月末で打ち切りとなったが、来春には冬眠から目覚めたクマが再び徘徊するかもしれない。その時に自衛隊は再び出動するのか。本物の銃が解禁され、クマと直接戦うことはできるのか。現役自衛官へのインタビューをもとに考えていきたい。(安全保障ジャーナリスト、セキュリティーコンサルタント 吉永ケンジ)
近年の自衛隊「鳥獣対策」は
伝染病対策が中心
野生動物の脅威を身近に感じるのは、アフリカのサバンナや南米のアマゾンぐらい――。多くの日本人はそう思っていたが、2025年秋は現代日本がクマの脅威に震撼することになった。秋田県を中心にクマによる人身被害が過去最悪のペースで増加し、全国で死者が多数発生するなど被害が深刻化した。
2025年度の被害者は197人、そのうち死者は12人(10月末時点)。死者数は、近年最多だった2023年度の6人(被害者数は219人)を大きく上回っている。クマの出没増加や人身被害の背景には、エサの不足、生息域の拡大・密度の増加、ヒトへの警戒心の低下など複数の要因が複合的に絡んでいると言われる。
「木銃」と「防護盾」を装備した陸上自衛隊員の姿(出典:小泉進次郎防衛大臣の公式「X」より)拡大画像表示
しかし、原因が分かったからといって、クマの被害が減るものではない。秋田県の鈴木健太知事は10月28日、防衛省を訪れ、駆除を支援するよう自衛隊の派遣を緊急要望した。
このような要望は、現代日本では極めて珍しい。
20代の頃に東北地方の普通科連隊(歩兵)で勤務したことがある、ベテラン陸上自衛官のA氏は「クマ対策で自衛隊が出動することは全く考えられなかった」と当時を振り返る。
近年、自衛隊が鳥獣対策で出動するケースは、鳥インフルエンザや口蹄疫が流行した際の災害派遣が中心だった。これらは伝染病の拡大防止に向けた措置であり、主な活動内容は家畜の殺処分など。自衛官が山の中に分け入り、害獣と直接対峙する機会はなかった。
ただ、少し古い話になるが、興味深い例外が2つある。
1つ目は、1950年代から60年代にかけて行われた北海道でのトド駆除だ。この時は、漁業被害をもたらすトドに対して、陸上自衛隊が「射撃訓練」という名目で出動し、高射砲まで実弾射撃したほか、航空自衛隊も戦闘機を繰り出した。とはいえ、本当の目的は射撃の爆音でトドを追っ払うことであり、撃ち殺すことではなかったという。
2つ目は、こちらも50年以上前のことだが、北海道で陸上自衛官が自動小銃でクマを射殺したという記録が残っている。1971年5月、十勝平野西部で遭難したヘリコプターの搭乗員を捜索していたところ、クマが突然現れて襲いかかろうとしたため、身の危険を感じた隊員が小銃で射殺した。
クマは4歳の雄で体重は120キロだったとされる。過去には陸自駐屯地の資料館に剥製が展示されていたというが、現在は定かではない。







