「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。

たくさんPoCをやっているのに「新サービスを生み出せない組織」に共通する“ざんねんな特徴”Photo: Adobe Stock

そのPoCは、誰の評価を確かめていますか

「いま、複数のPoC(Proof of Concept:新しい技術やアイデア、コンセプトが実際に実現可能かを検証するプロセス)が走っています」そう聞くと、前向きで挑戦的な印象を受けます。

 実際、多くの企業で、新技術や新規事業の検討としてPoCが盛んに行われています。

 新しい技術を試す。スタートアップと組む。AIを使ったユースケースを検証する。

 気づけば、「何を確かめるためのPoCだったのか」が曖昧なまま、次の検証が始まっている。

 しかし、少し立ち止まって考えてみてください。それらのPoCのうち、実際のサービスとして世に出たものは、どれだけあるでしょうか?

 もし答えに詰まるとしたら、そこには構造的な問題が潜んでいるかもしれません。

PoCが「目的」になった瞬間、前に進まなくなる

 新サービスを生み出せない組織に共通しているのは、PoCそのものが目的化してしまっている点です。

 本来、PoCは「技術的にできるか」「仮説が成立するか」を確かめるための手段にすぎません。

 ところがいつの間にか、

 ・PoCをやったかどうか
 ・技術的に面白いかどうか
 ・社内で説明しやすいかどうか

 といった基準で評価されるようになると、「次に進む理由」が曖昧になります。

 結果として、PoCは増えるがサービスは生まれない、検証は続くが意思決定は先送りされる、そんな状態が常態化していきます。

PoCで終わる組織が見落としている視点

 PoC止まりの組織が見落としているのは、「実際に価値を受け取る人」の存在です。

 PoCの多くは、技術的に実現可能か、内部的に成立しているかを確かめることに終始します。

 しかし、新サービスが成立するかどうかを決めるのは、実際にお金を払う人がいるかどうか、そしてその人にとって意味のある価値かどうか、という点です。

 技術が動くことと、価値が届くことは、まったく別の話です。

 ここを混同すると、「できるが、使われない」「評価はされたが、選ばれない」PoCが量産されてしまいます。

新サービスは、「実験室」ではなく「現場」で育つ

 新サービスが生まれる組織は、PoCで止まりません。ある段階で、「完全ではないが、出してみる」という、完璧な形を待たずに、実際の価値提供に踏み出す判断をします。

 実際の顧客に使ってもらい、不満や拒否反応も含めて、リアルな声を受け取る。その反応をもとに、仮説を修正し、形を変えていく

 机上の検証や限定的なPoCでは得られないフィードバックを活用したこの往復こそが、PoCを「検証」で終わらせず、「サービス」に変えていくプロセスです。

 PoCを重ねるほど慎重になり、現場に出る決断が遅れると、組織はいつまでも「検証中」のまま止まり続けてしまいます。

 PoCを否定する必要はありません。

 重要なのは、完璧さではなく、実際に価値を提供し、顧客の反応から学ぶことです。ターゲットとする顧客に価値を届け、その反応を受け取って初めて、戦略は前に進みます。

『戦略のデザイン』では、PoCを「実証」で終わらせず、実際の価値提供へとつなげていくための考え方を整理しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。