海外M&Aが増え、海外投資家比率が急上昇している昨今。「英語の決算書を読むスキル」の必要性がこれまでと比べてはるかに上がっています。しかし、ただでさえ難しそうな会計用語を英語で読むなんてとんでもない、と思う人も少なくありません。
そんな人に最適なのが新刊『【新版】英語の決算書を読むスキル』です。
実は、英語の決算書は「中学英語レベルの英単語」による勘定科目と、グロス、ネットといった「カタカナ英語」の2つを整理すれば十分理解できるのです。そんな「会計英語の勘どころ」や「会計で頻出の英単語」はもちろん、会計指標分析、成長率計算、百分率決算書といった「これでひととおり決算書を分析した」と胸を張って言えるツールまで全網羅。少しでも英語の決算書に触れる機会のあるビジネスパーソンは全員必携の書になりました。
今回はその中から、Netflixの巨額のコンテンツ投資について紹介します。

何度も危機を脱してきたNetflixから学べる脅威的なキャッシュの使い方Photo: Adobe Stock

環境より先に変化しなければ、
Netflixは生き残れなかった

何度も危機を脱してきたNetflixから学べる脅威的なキャッシュの使い方図表1 Netflixの9年間にわたるキャッシュフロー1
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何度も危機を脱してきたNetflixから学べる脅威的なキャッシュの使い方図表2 Netflixの9年間にわたるキャッシュフロー2
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『NO RULES 世界一「自由」な会社、NETFLIX』(リード・ヘイスティングス、エリン・メイヤー著、土方奈美訳、日本経済新聞出版、2020年)によると、多くの企業は自らの業界が変化すると経営が傾く中、Netflixは15年の間に4回ものエンタテインメント業界と事業内容の大きな変化にうまく対応したとあります。

Netflixが乗り切った業界の4つの波
波1 郵送DVDレンタル事業から、古いテレビ番組や映画のインターネット・ストリーミングへ
波2 古いコンテンツのストリーミングから、外部スタジオが新たに制作した独自コンテンツの配信へ
波3 外部スタジオ制作のコンテンツをライセンス配信する状態から、社内スタジオを立ち上げて数々の賞を受賞するほどのテレビ番組や映画を制作する体制へ
波4 アメリカだけの企業から、世界190カ国のユーザーを楽しませるグローバル企業へ

 2025年現在でも、Netflixは190以上の国で事業を営んでいると語っています。本書のNetflixのケーススタディからは、利益とCFの違い、CF計算書の有用性(特に営業CFを間接法で記載する恩恵)に加えて、立ち上げの会社に求められる投資や資金調達など、多くの学びが得られます。

 波1~3の変容を遂げた後の波4において、順調にこれを拡大させながら、かつコロナ発生によって飛躍的に成長したNetflixについて、CF計算書から観察を進めると、下記の学びを得ることができます。

NetflixのCF計算書から得られる5つの学び
学び1 営業CFでは、利益はあっても(PL上は黒字)、キャッシュは失い続ける(営業CFは赤字)ほどのコンテンツへの飽くなき投資が行われてきたこと
学び2 財務CFでは、これをサポートする投資家を引き寄せ、継続的な資金注入が成功裏に行われてきたこと
学び3 営業CFで足し戻す償却については、利益は黒字で成長していても、監査人によるCAM(Critical Audit Matter)での指摘にもあるように、コンテンツ資産の償却手法に少なからず影響されたものであること(Cash is reality, profit is a matter of opinion.と言われる所以)
学び4 直近2年間の営業CFからは、環境変化に対して、広告付きプランの導入やアカウント共有禁止の厳格化など、自社の優位性を失いかねない意思決定を実行することにより、低迷からの脱出を果たす英断を行ってきたこと
学び5 伸び続ける会員数からは、根本的にNetflixを支え続けてきたのは、有料視聴者会員であり、私たちが評価するのはコンテンツ資産そのものであること。私たちの期待を上回るコンテンツを発信し続けてきたことが、常にNetflixの中心にあり、それが株主の評価にまで発展していること

 Netflixの決算数値を創り出すドライバーを改めて拾えば、2024年末の会員数は3億人、年間売上高390億ドル(6兆円超)、コンテンツ資産への投資162億ドル(約2兆5000億円)と、1つのメディアとしてはすべてが桁違いの規模にあります。

 日本でもっとも番組制作予算があると言われているNHKでも、2024年度の国内放送費(番組関係)は約3000億円なので、Netflixの10分の1程度です。NHKの制作予算は民放5社を合わせた金額より多いと言われるものなので、民放5社はもとより、U-NEXTやABEMAなど日本発の有料動画配信サービスの制作費はさらに限定的と言わざるを得ないでしょう。

 こうした点からすれば、豊富なコンテンツへの持続的な投資によってNetflixを打ち負かすことは、到底不可能な状況です。むしろ自社が制作したコンテンツをNetflixに供給してライセンス収入を得るなど、すでに見られる共存の動きが1つの戦略なのでしょう。

 加えて、Netflix自身も昨今は、Live Event Strategy(ライブイベント戦略)を遂行し、スポーツや音楽のLIVE放送、生放送のトーク番組などを拡大する傾向にあります。見方によっては、従来のNHKや民放テレビ局が提供してきたものと同じ方向に向かっているとも受け取れます。

 違いと言えば、あらゆるデバイスを使ったネット上で、広告なしで、グローバルで魅力的なコンテンツをライブも含めて視聴できること。NHKも民放各局も一部そうしたコンテンツは発信していますが、その機会は限定的です。

 私たち視聴者の趣向や、コンテンツを届けるための技術は、日進月歩で激しく変化しています。DVDレンタルを中心としたBlockbusterが2010年に経営破綻したことは、Netflixにとって常に変化し続けるという戦略の根拠となっています。

 環境の変化より先に自らが変化を遂げなければ、これをチャンスととらえた存在によって、優位性は失われていく。Netflixの歴史とCF計算書からは、そんな教訓を感じさせられるものです。

 Netflixの創業者リード・ヘイスティングスが「変化」を受け入れることのスタンスについて語っている言葉を最後に紹介しましょう。

Welcome constant change. Operate a little closer toward the edge of chaos.
絶え間ない変化を歓迎せよ。混沌の縁で少しだけバランスを取りながら動け。
出典: Reed Hastings, Erin Meyer, “No Rules Rules: Netflix and the Culture of Reinvention” Penguin Press, 2020