『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第50回では、成長企業における「社員の引き抜き」について解説する。
ライバル社から「私と組まない?」
主人公・花岡拳が経営するアパレル企業・ハナオカは、IPO(新規上場)の是非をめぐり、生産部門を中心とした賛成派と、営業部門を中心とした否定派に二分しつつあった。
そんな中、賛成派のリーダーとも言える片岩八重子(ヤエコ)は、花岡のライバルであり、ビジネスでも数々の嫌がらせを繰り返してきた一ツ橋商事の井川泰子から、食事の誘いを受ける。
「ホントは顔も見たくないとこだけど…」と警戒するヤエコに、井川は「いきなりガード固くしないでよ。まずはリラックス」とワインを勧める。400グラムのステーキをオーダーした井川は、ヤエコに対して「曾祖母は104歳、祖母も82歳で、母もまったく一緒でとにかくお肉と赤ワイン大好き」とプライベートを吐露しつつ、ヤエコを懐柔する。
「私はね…実はあんたのこと高く評価してんのよ。これだけの技術を持った人はそういないって…」
「それでさ…将来的に私と組まない?」
一ツ橋商事は今、ある海外ブランドの日本展開を画策しているが、その条件には日本で高品質な工場と提携することが含まれている。そこでヤエコとハナオカの工場を手に入れるため、上場後のハナオカに買収を仕掛ける構想を語る。そしてヤエコに、協力者になれば買収後に「役員のポストと高待遇を保証する」」と口説くのだった。
引き抜きが起きる会社は「一段階上」に進んでいる
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
役員ポストまでを示唆して、ヤエコに引き抜き提案をした井川。花岡憎しで会社をかき回したいという意図こそあれど、ハナオカという新興企業のフェーズが変わった象徴的なシーンではないだろうか。
スタートアップや成長途上の企業においては、「社員の価値」というのはあくまで社内でのみ評価されがちだ。例外があるとすれば、「あの有名企業の成長に貢献した人物が参画」といった話については、プレスリリースを配信したり、メディア露出を狙うこともあるだろう。
しかしIPO準備という局面に入り、結果として社外からハナオカという企業の強みが分析されるようになった。その結果キーマン社員や工場といった「その企業独自の強み」も市場に露出したのだ。
これまで悪役として描かれてきている井川の提案は、あまり気持ちいいものではないが、ビジネスとして考えれば極めて合理的だろう。
海外ブランドのために高品質な工場を必要としているからこそ、たとえ競合であろうが、その技術を認めた人材に声をかける。これは成熟した企業間競争においても珍しくない動きと言えるだろう。花岡にとってうれしい話ではないだろうが、少なくともハナオカという企業が、評価されているということなのだ。
思いもよらない井川の提案に悩むヤエコ。仕事も上の空でミスを起こし、結果としてハナオカの月の売り上げは減収に転じてしまう。
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク







