「エージェントAI革命」が
将来予測を困難にしている

 現在の世界経済は、AIの進展によって大きな転換点にある。最近特に注目されているのが、エージェントAIだ。これは人間が指示を出さなくても、情報を収集し、複数の作業を連続的に実行する自律的な能力を持つAIだ。

 エージェントAIは、企業組織や人間の働き方そのものを大きく変える可能性を持つ。このため、どの産業が将来の主役になるのか、どの技術が標準になるのか、などを長期的に見通すことがかつてないほど難しくなった。

 ここ1年間の変化を見ても、AIが経済活動に与える影響の大きさは明らかだ。例えば、生成AIの利用によってソフトウエア開発のあり方が変化し、専門のプログラマーでなくても実用的なアプリを作れる「バイブコーディング」が急速に広がった。

 そして、エージェントAIは単なるコード生成を超えて、業務フローそのものを自動化しようとしている。経費精算や契約書レビュー、顧客対応など、従来はSaaS企業が提供してきたサービス領域にまでAIが直接に入り込み、「SaaSの死」と呼ばれる問題が市場で広がったのは、象徴的な出来事だった。

 こうした変化は、特定の産業にとどまるものではない。エージェントAIが企業の内部業務を担うようになれば、必要とされる人材も組織構造も大きく変わるだろう。

 中間管理層の役割が縮小する可能性がある半面で、少人数のチームが高度な生産性を発揮する可能性がある。こうして、政府が「成長分野」として選定した産業が、数年のうちに意味を失う可能性が出てきた。

 政府が3月にまとめる「AI指針案」では、エージェントAIについて言及すると報じられている。ただし、そこで強調されるのは、「人間の判断の重要性が残る」という視点のようだ。

 エージェントAIが経済構造に与える影響の深さについての問題意識が十分かどうかは、不明だ。AIが「産業分類そのものを揺るがす技術」であるという視点が弱いままで戦略分野を固定化してしまえば、技術変化のスピードに取り残されかねない。

 AIの進化が、半導体やソフトウエア、ロボット、通信といった既存の区分を横断して進む以上、国家があらかじめ重点分野を決めてしまうこと自体がリスクとなり得る。

 それにもかかわらず、高市政権は戦略分野を選定し、そこに大規模投資を行おうとしている。これは、「エージェントAI以前の経済観」に基づく経済政策と言わざるをえない。

政府が「勝ち筋」描くのは危険
政治的介入を遮断できない危険や資源配分硬直化

 ここで改めて問われるべきは、「投資のリスクを誰が負うべきか」という古くからの問題だ。

 本来、高い不確実性を伴う投資は民間企業が担うべきだ。株式会社制度は、有限責任という仕組みによって、失敗のリスクを分散しながら新しい挑戦を可能にしてきた。

 大航海時代以来、革新的な投資の多くはこの制度を通じて行われてきたのであり、国家が直接リスクを取ることが歴史の本筋だったわけではない。

 高市政権の政策の基本は、政府が未来の産業構造を決めようとする考えだ。しかし、AIによって産業の姿が根底から変わる時代に、国家が「勝ち筋」を描こうとすれば、市場の試行錯誤を阻害する恐れがある。