世界観の衝突、米国防総省・アンソロピック決裂の舞台裏Photo:Tom Williams/gettyimages

 米人工知能(AI)開発企業アンソロピックのダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)は、ピート・ヘグセス米国防長官と初の対面会談をした際、AIが制御する自律型兵器のリスクについて持論を展開した。

 ヘグセス氏はそのような話を聞きたくなかった。たとえ相手が米軍に有益な働きをするAIツールを開発した企業のCEOであっても。

「米軍兵士に何ができて何ができないかをCEOが指図するなどあり得ない」。ヘグセス氏は2月24日の会談で、アモデイ氏の話を途中で遮り、こう言い放った。事情に詳しい複数の関係者が明かした。

 性格も世界観も全く対照的な2人の亀裂が修復されることはなかった。そして経済成長と国家安全保障に不可欠だとして、AIの迅速な普及を推進してきたトランプ政権は今、国内大手のAI企業と激しく対立する事態に陥っている。

「これは政策論争の陰に隠れた、バイブス(雰囲気)と性格を巡る闘いだ」。国防総省の元当局者でAI政策に携わったマイケル・ホロウィッツ氏はこう指摘する。

 詰まるところ「アンソロピックと国防総省の信頼関係が破綻した」ということだと、同氏は言う。「アンソロピックは、国防総省が自社の技術を責任ある形で使いこなすほどの知識がないと考え、国防総省は、アンソロピックが同省の必要とする重要な使用事例に積極的に取り組む気がないと判断している」

 アモデイ氏は1年以上前、心配する従業員に対し、アンソロピックが米軍と結んだ契約は主に事務処理に関するものだと説明していた。だが最近では、国防総省との衝突が、現代の戦争や、さらには社会全体の未来に重大な影響を及ぼすものだと位置づけている。

 ドナルド・トランプ大統領は2月27日、全政府機関にアンソロピックとの協力停止を指示し、同社幹部は「左翼の変人」だと非難した。

 同日中にヘグセス氏は、アンソロピックとのAIツール使用に関する合意期限が過ぎたのを受け、同社をサプライチェーン(供給網)上のリスクに指定した。米企業にこの措置が行使されるのは異例だ。アンソロピックは法廷の場で異議を申し立てると予想されるが、もしその後もこの措置が存続した場合、ロッキード・マーチンやアマゾン・ドット・コム、マイクロソフトなど、他の政府請負企業と協力する同社の能力が損なわれる可能性がある。そうなれば、同社を世界で最も評価額の高いスタートアップ企業の一つへと押し上げたビジネス関係そのものを脅かしかねない。

 皮肉なことに、トランプ氏は投稿の直前に、イランへの攻撃を承認していた。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道によると、攻撃の計画にはアンソロピックの大規模言語モデル(LLM)「クロード」が使われていた。