AIに仕事を奪われる? それより深刻な事態とはIllustration: Adrià Voltà for WSJ

 どんな企業のオフィスに足を踏み入れても、同じ不安げな会話が聞こえてくるだろう。「人工知能(AI)はホワイトカラーの仕事を奪ってしまうのか」と。

 楽観主義者は、失われる仕事に代わって新しい仕事が生まれると主張する。結局のところ、過去の技術革命でもそうだったからだ。現実主義者は、労働力はAIによって単純に生産性が高まり、人員削減は最小限にとどまりつつ、より大きな価値が生み出されるようになると論じる。そして悲観主義者は、エントリーレベルの知的労働者が完全に不要になることを恐れている。

 しかし、この議論は重要な力学を見落としている。今まさに労働者は自分たちを不要にする方法をAIに教えている可能性があるのだ。しかも、彼らは往々にしてそのことに気づいていない。

 企業が使用する種類のAIは「エンタープライズAIシステム」と呼ばれ、職場でのあらゆる行動を捕捉し、その情報を使って自らを訓練することができる。これらのシステムは、プラットフォーム内でのやり取り、つまり、あなたが書くプロンプト、作成する文書、実行するクエリ(検索・照会)などを記録できる。

 言い換えれば、企業はシステム内でのあらゆるキー入力、そこで文書化されたあらゆるアイデア、そのプラットフォームを使って構築されたあらゆるツールを追跡し、その所有権を主張できる可能性がある。どのアプローチが最も効果的だったか、どのような電子メールの文面が返信を得られたか、どのように顧客にアプローチしたかを特定できる。そして、そうした知識のすべてが企業のAIの一部となり、最終的には従業員がどのように仕事をしているかを、ますます細かなレベルまで把握するようになるかもしれない。

 従業員にとって危険なのはそこからだ。AIはその情報を、あなたの仕事をする他の誰かに伝えることができ、場合によってはAI自身がその仕事をこなすこともできる。時間がたつにつれ、雇用主にとってあなたの価値は大幅に下がり、代わりが利く存在になってしまう可能性がある。

 この力学は、雇用主と従業員の関係を根本的に変えるかもしれない。事態の重要性と切迫度があまりにも高いため、双方とも自らの立場を確立(あるいは防衛)しようと急いでいる。経営陣は生産性の向上と競争上の優位性を求めてエンタープライズAIシステムを急速に導入しており、雇用の安定やプライバシーへの影響については必ずしも開示していないことが多い。一方で、少なくとも一部の従業員は、雇用主が自分の知識や行動のすべてを捕捉できないようにするため、時には社内規定に違反してでも、ひそかに個人的なAIツールを使い始めている。