【解説】「点と点」が線になる多様な経験の価値
乱歩の職歴を見ると、一見すると一貫性がなく、現代のキャリア形成のセオリーからは外れているように思えるかもしれません。しかし、屋台でのラーメン売りや探偵事務所での勤務といった多種多様な経験は、決して無駄ではありませんでした。
そこで得た市井の人々のリアルな生活感や、人間の持つ泥臭い一面といった生々しい知見が、後にミステリー作家としての圧倒的な描写力や着想の源泉となったのです。
ビジネスパーソンである私たちにとっても、不本意な異動や畑違いの業界での経験が、後になって思いがけない形で結びつき、斬新なアイデアを生み出す「独自の武器」に変わることが多々あります。
環境を変えることを恐れない「アジリティ」
また、生涯で46回もの引っ越しをしたというエピソードからは、彼がひとつの場所に執着せず、常に自らの感覚に合う環境を求めて動き続けたことが伺えます。これは変化の激しい現代ビジネスにおいて求められる「アジリティ(敏捷性)」に通じるものがあります。
自分に合わない環境や合わないやり方で無理に消耗するのではなく、フットワーク軽く居場所やアプローチを変えていく柔軟性が、結果的に最高のパフォーマンスを引き出すことにつながるのです。
試行錯誤のプロセスを肯定する
小説家として大成したのが40歳頃だったという事実は、「自分の天職や強みはすぐに見つからなくてもいい」という勇気を与えてくれます。
迷い、もがき、さまざまな環境を転々とした乱歩の試行錯誤の軌跡は、多様な経験を泥臭く重ねながら自分だけのキャリアを模索し続ける現代のビジネスパーソンにとって、大きな励ましと指針になるはずです。
※本稿は、『ビジネスエリートのための 教養としての文豪』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。







