◆なぜ「飽き性」が最強の武器になるのか? ジョブズも実践した驚きの働き方
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江戸川乱歩のふらふらした人生が導き出した…ぐうの音も出ない答えイラスト:塩井浩平

29歳でデビュー
芽が出たのは40歳ごろの遅咲き作家

江戸川乱歩(えどがわ・らんぽ 1894~1965年)三重生まれ。本名・平井太郎。早稲田大学政治経済学部卒。代表作は『D坂の殺人事件』『怪人二十面相』『人間椅子』など。日本の推理小説の先駆者として知られる。幼いころは母親が海外の探偵小説や日本の怪奇小説などを読み聞かせた。造船所や貿易会社、ラーメンの屋台などさまざまな職を転々とするが、推理小説への情熱は冷めず、大正12(1923)年、『二銭銅貨』でデビューして一躍注目を集める。その後、探偵小説や怪奇小説を次々と発表し、日本のミステリー文学に多大な影響を与える。昭和40(1965)年、くも膜下出血により70歳で死去。

新しきを貪る「飽き性」という名の才能

江戸川乱歩が、従来の日本文学になかった面白さを形づくったのは、いい意味で“飽きっぽい性格”だったからともいえます。

乱歩は子どものころから、西洋から入ってきた映画や写真などの新たな文化に興味津々だったようです。そうしたものへの強い愛着は、ことごとく乱歩の小説にも活かされています。

挫折と放浪が育んだクリエイティビティの源泉

そういう意味では、若いころに金欠で苦しみながらも、いろんな仕事を転々として、あちこちに引っ越ししたりしてふらふらしてきた経験は、まわりの人からは“変わった人”と見られていたかもしれませんが、小説を創作するという面においては、やはり好影響を及ぼしたといえます。

ペルソナの奥底に潜む「もう一人の私」への渇望

『怪人二十面相』では、変装して多重人格のように次々と仮面をつけかえていきますが、もしかするとこれも、乱歩自身が原型になっているのかもしれません。

人間というのは複雑であり、誰しも多面的で、いろいろな顔を持ち合わせています。社会生活を送るなかで、他人に見せている自分とは別の「自分じゃないもう1人の自分になりたい」という欲望と戦いながら生きているところがあるのではないでしょうか。

【解説】「飽きっぽさ」を武器に変えるキャリア戦略

乱歩の「飽きっぽい性格」や「職を転々とした経験」は、現代のキャリア形成において強力な武器になり得ます。ビジネスの世界では、一つのことを極めるスペシャリストが重宝される一方で、変化の激しい今の時代は、多様な分野に好奇心を持ち、領域を横断して知識を組み合わせる「越境思考」が強く求められています。

スティーブ・ジョブズがカリグラフィーの知識をMacのフォントに活かしたように、乱歩もまた、映画や写真といった最先端の文化や、転職で得た雑多な経験という「点」を、小説というフォーマットで「線」へとつなぎ合わせました。

一見すると無駄に思える寄り道や、飽き性ゆえの幅広い興味関心こそが、他者には模倣できない独自性(イノベーション)の源泉となるのです。

多様な「ペルソナ」を使い分けるしなやかな適応力

また、『怪人二十面相』に見られる「多面性」も、現代のマネジメントやコミュニケーションに通じる重要な視点です。私たちは組織の中で「上司」「部下」「プロジェクトリーダー」といった多様な役割(ペルソナ)を求められます。

「本当の自分はこうではない」と葛藤するのではなく、状況に応じてしなやかに仮面を付け替える柔軟性こそが、複雑なビジネス環境を生き抜く最適解といえます。乱歩の生き方は、「一つの顔(役割)に固執しなくていい」という、現代を生きるビジネスパーソンへのエールでもあります。

自分の中にある多様な顔を肯定し、したたかに「変装」を楽しむ心の余裕が、ビジネスにおける新たな飛躍の原動力となるでしょう。

※本稿は、『ビジネスエリートのための 教養としての文豪(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。