AIの進化によって「知っているだけ」の価値は急速に薄れている。では、これからの時代に本当に必要とされる力とは何か――。言語化のプロで『こども言語化大全』(ダイヤモンド社)の著者・山口拓朗氏と精神科医で『こどもアウトプット図鑑』の著者・樺沢紫苑氏の対談から見えてきたのは、AIには決して真似できない“ある力”だった。それは特別なスキルではなく、誰にでもできるシンプルな行動にあるという。なぜそれが人間の決定的な武器になるのか。AI時代を生き残る人の条件を、具体例とともにひもとく。(構成・森本裕美)

【樺沢紫苑×山口拓朗 対談03】AIに奪われない「たった1つの能力」を育てるには?精神科医・樺沢紫苑氏(左)と言語化のプロ・山口拓朗氏(右)

AI時代は「行動した者=アウトプットした者」が勝つ

山口拓朗(以下、山口):AIが目覚ましい発達を遂げていますが、AI時代に生き残っていくのは、どういう人だと思いますか?

樺沢紫苑(以下、樺沢)アウトプットできる人です。今までの時代は、インプット量というものが結構重要でした。特に昭和の時代は、知識のある人が賢い人、頭のいい人として会社の中でも重宝されましたよね。ところが、これからは知識はAIに聞けば一瞬で答えが出てくる時代です。だから、それを「早くやった者」が勝ちます。つまり行動できる人が勝者です。行動しない人はずっと「うーん」とやっているんだけど、行動できる人はその間に何回も行動しちゃう。どんどん差がついていきますね。

山口:なるほど。アウトプットというのは、「話す・書く・行動する」ということですよね。

樺沢:そうです。これからはそういう能力が絶対必要なんですよ。ちょっとしたことを、すぐに試しにやってみるという、このフットワークの軽さみたいなのを子どものうちからぜひやってみにつけていただきたいですね。大人になって仕事をするようになると、大きな失敗ってやりづらくなる。迷惑がかかるし、評価も下がるし。だから子どものうちに、社会人になる前に、どれだけ失敗できかということが大事ですね。

山口:先生のご著書『19歳までに手に入れる7つの武器』(幻冬舎)には、失敗の大切さが書かれていますよね。

樺沢:はい、大人になるまでに「100回失敗しろ」と書いたんです。100回失敗するということは100回立ち上がる練習をするということです。100通りダメな方法を試すことができるので。1回失敗して振り返る、フィードバックするごとに経験値が得られますから、100回分の経験が得られるということなんです。チャレンジしない人は失敗することもないから経験値が増えない。だからいつまでたっても成長しない。失敗って、したほうがいいんです、絶対に。特に大人になるまでにしてほしいですね。

山口:そこで得た経験は唯一無二ですよね。ネットとかAIで得た情報って平均的な一般化された情報じゃないですか。だから自分が行動して体験していくというのはすごく大事だと私も思います。

AIには不可能! 人間の強みは「体験できること」

樺沢:AIにできないことっていくつかあるんだけど、「体験する」ということはAIにできないことの一つですね。AIは他人の体験を集めてきて、あたかも「こういう時はこうしたほうがいいですよ」と語るけど、自分自身は体験したことがない。だから、人間の強みは「体験できる」ということなんです。映画を見て感動するというのも一つの体験だし、何かを食べて「うわ、これおいしいわ」ということを感じ取ったり、感動して涙を流したり。こういうことは人間にしかできないですよね。あるいは、キャンプで一緒にご飯を作ったりして「できた!」という達成感を得たりね。子どもにとっては、これがまた自信とか自己肯定感の向上につながっていきますね。

山口:旅行やキャンプに行くと、子どもたちは目をキラキラさせて遊びますよね。

樺沢:そう。松ぼっくりを見つけて勝手に何か作ったりするでしょう? あれが子ども本来の好奇心であり、脳のパワーなんですよ。

脳の肥料になる「アセチルコリン」

樺沢:私は今「アセチルコリン」という脳内物質に注目しているんですけど、これが出ると、脳の神経の枝が伸びるんです。まあ、肥料と言ってもいいです。アセチルコリンは神経の枝を伸ばすための肥料になるんですね。で、アセチルコリンは「創造性」「想像力」「好奇心」を感じた時に出るんです。「面白そう!」という時にもアセチルコリンが出ている。

山口:それって、子どもの専売特許のようなものですよね?

樺沢:そうです。子どもって必ず「なぜ?」「どうしてこうなるの?」とか、聞いてきますよね。それは好奇心ですから、アセチルコリンがバンバン出ているということ。つまり神経が枝を伸ばそうとしているということ。だからそういう時は、親御さんは詳しく教えてあげたらいい。そういう時に、神経の枝が伸びているわけですから。で、アセチルコリンを出すということは、発想力を高めたりすることにもすごく重要です。

山口:発想力というのは、人間が得意な分野ですよね。

樺沢:はい。創造性や発想力、つまり0を1にするというのは、今のところAIよりも人間のほうが勝っている数少ない分野になっているわけ。だから、これからの時代、人間は創造性を鍛えないといけないんですね。そして、どうやったら鍛えられるかっていうのは、もう分かっているんです。アセチルコリンを出せばいいんです。

色々な体験をすると「アセチルコリン」がたくさん出る

山口:アセチルコリンを出すためには、好奇心を持てばいいんですよね?

樺沢:そうです。「新奇性(しんきせい)」という言葉を私はよく使うんだけど。新奇性のあることにアセチルコリンは反応します。つまり「新しい人と会う」「新しい場所に行く」そして「新しいことをやってみる」。この3つでアセチルコリンは出るんですよ。だから簡単ですよね。旅行に行ったら、知らない場所に行くし、その旅先の人って全部初めて会う人がほとんどなわけですよね。色々なところで何か面白い体験をするというようなことをすると、アセチルコリンがバンバン出るんです。

山口:やっぱり、生の体験というのが大事なんですね。

樺沢:「神経可塑性(しんけいかそせい)」っていう言葉は聞いたことありますか? 神経可塑性というのは、何度も同じ情報を使えば使うほど、神経と神経のつながりが太くなり、伝わるスピードも速くなるということです。

山口:なるほど。

樺沢:で、この神経可塑性というのは、アセチルコリンが出ることによって一気に太くなるんです。回路が高速道路にアップグレードするようなものです。だから、新しい体験は脳の構造そのものを変えるんです。

山口:子どもの時のことを思い出すと、私も色々な遊びをしましたけど、遊んでいると絶対にそれに飽きて工夫するんですよね。ルールを追加するとか。あれって多分好奇心だし、まさに脳内物質がバーッと出ている瞬間だと思うんですよね。だから遊びとか身体感覚って大事ですね。

樺沢:そう、身体感覚ね。それは人間しかできないから。

言語化力が高い人間は、将来必ず重宝される

樺沢:身体感覚の話で言うと、AIに奪われない職業の一つの例として、私は「ラーメンブロガー」っていうのを挙げているんですね。

山口:あははは。

樺沢:ラーメンを食べて、「おいしいですよ」というのをアウトプットする。言葉にして伝えるっていうのがラーメンブロガーですけれども。それっていうのは、AIには絶対にできないんですよ。実際に食べて「おいしいのか」というのは人間が食べない限りは絶対にわかりません。だから、体験を言葉にできる力は非常に価値が高いんです。

山口:たしかにそうですね。

樺沢:今、AIは頭が良いと言われているけど、それって人間のアウトプットしたものを全て読み込んでいるから頭がよくなっているんですね。逆に言うと人間がそういう体験したことをネットに上げるのをやめてしまったら、AIが成長するベースがなくなるわけです。だから私も「本の感想とかを書いてね」と、みなさんによく言ってるけれど、それって非常にかけがえのないことなんです。人間だけの体験なんですよ。自分の体験とか感想を書くっていうのはすごいことなんです。AIにはできないすごいことだっていうのを理解してほしいし。だからこれが上手にできるようになると、まぁ、食いっぱぐれないですよね。

山口:そういうことですね。AI時代に勝ち残るのは、自分の体験を自分の言葉で伝えられる人、ですね。

樺沢:だからAIは、そうやって体験を記述してくれる人間をおそらく優遇します。養分がないと成長できないからです。AIは生々しい体験を食べて成長しているので、それを提供できる人間はものすごい価値がある。だからアウトプット力、言語化力、これが高い人というのは、将来間違いなく重宝されます。

樺沢紫苑(かばさわ・しおん)
プロフィール
精神科医、作家
1965年札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。「情報発信によるメンタル疾患の予防」をビジョンとし、YouTube(60万人超)、メールマガジン(12万人)など累計100万人フォロワーに情報発信している。著書は累計100万部の大ベストセラー「学びを結果に変えるアウトプット大全」「学び効率が最大化するインプット大全」(サンクチュアリ出版」や「ストレスフリー超大全」(ダイヤモンド社刊)ほか、50冊超。

*本記事は、『12歳までに身につけたい「ことば」にする力 こども言語化大全』(ダイヤモンド社)の著者・山口拓朗氏と、『こどもアウトプット図鑑』(サンクチュアリ出版)の著者・樺沢紫苑氏のYouTubeで公開予定の対談をベースに重要なエッセンスを再構成したものです。