頻繁な胸焼けは、鼻の奥から声帯にかけた「咽頭・喉頭」のがんを引き起こすリスクがあるようだ。がん予防学の専門誌に掲載された米ブラウン大学の研究から。

 同研究では、ボストン在住の咽頭がん患者468人、声帯にがんが見つかった患者163人と一般住民とを比較した。参加者は胸焼け症状の頻度、がんの家族歴のほか、咽・喉頭がんとの関連が深いとされる喫煙と大量飲酒に関する質問に答えた。また、同性・異性愛にかかわらずオーラルセックスで感染し、咽頭がんを引き起こす「HPV16」については、血液検査で感染の有無を確認している。

 その結果、大量喫煙や大量の飲酒をしていないにもかかわらず、頻繁に胸焼けを起こしている人は喉や声帯にがんを生じるリスクが78%も上昇していたのである。一方、胸焼けに悩み、胃酸を中和する制酸薬を飲んでいる人は、喫煙や飲酒、HPV16感染の有無にかかわらず発症リスクが41%低下することがわかった。

 胸焼けを起こす原因の一つである「胃食道逆流症(逆流性食道炎)」は、欧米では一般的な疾患だ。日本でも食生活の欧米化の影響で患者数が増えている。市販の制酸薬でなだめすかしている人や、医療機関で処方されるH2ブロッカーやPPIなどの胃酸分泌抑制薬を飲んでいる人も多いだろう。

 胃酸や胆汁など強い酸から保護されている胃や十二指腸とは違って、食道や咽・喉頭は酸の暴露に弱い。胃酸があがるたびに粘膜がキズつくのだから、がん化リスクも上昇する。特に食道がんとの関連は以前から指摘されていた。今回初めて、咽頭や声帯でのリスクが示されたわけだ。ただ、制酸薬が咽・喉頭がん予防につながるかという点は、まだ不明。研究者は、さらに調査が必要だとしている。

 咽・喉頭がんや声帯にできるがんの初期症状は「声枯れ」「喉に何かが引っかかったような気がする」「飲み込むときに違和感がある」など。男性では50代から急激に発症率が上がる。胸焼けと喉や鼻の奥の違和感が続くようなら、耳鼻咽喉科で喉頭内視鏡検査を受けてみるといい。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド